【声優道】松本梨香さん「自分にウソをつかない演技」

歌とお芝居は似ているけれど
歌うことで伝えられるメッセージもある

「歌とお芝居では発声法が違うんですか?」という質問を受けることがあります。私は歌詞の内容、歌に込められたメッセージを伝えたいという思いが強いので、言葉を大事になるべく会話するように歌っています。なので、発声を変えることはあまりしていないかもしれません。

歌もお芝居と似ているところがあるけど、また違った世界でもある。たとえば、普段なら照れてしまって口にするのが恥ずかしくなるような言葉でも、歌の中では直球で素直に言えてしまう。お芝居だったら1本の作品を2時間くらいかけて伝えるメッセージが、歌は1曲約4分の世界で物語やメッセージを届けることができる。だからこそ歌という表現も大好きなんです。

幸い、私は普通の人よりも強く、すごくいい声帯をもっているらしいので、喉のケアといっても大したことはしてないんですが、おすすめはハチミツパック。ハチミツと大根とショウガをお湯で溶いて、うがいをするように飲むんです。ちょっとカロリーは気になりますが(笑)、それをすると喉が疲れているときでも引っかかる感じがなく声が出せるんです。あと、歌う前に飲むヨーグルトもいいですね。喉に保護膜ができて、思い切り声が出せる気がするんです。本当はもっと気を遣わなくちゃいけないんだと思うのですが……。

ただ、喉が弱い人でも、声帯だけに負担をかけないよう、ほかの部分の筋肉を鍛えればカバーできます。声が細い人は、背筋と下半身を強化してみるといいんじゃないでしょうか。個人的な感覚なんですが、長時間の演技やライブをして声を振りしぼったあと、背中と太ももが筋肉痛になるんですよ。多分、声を前に出すために背筋と下半身で支えているんだと思います。よく声を出すために腹筋を鍛えるといいといいますけど、同時に背筋も鍛えたほうがいいと思います。

お芝居を通して人間を学んで自分を表現している

東日本大震災があって、仲間たちとやっているチャリティ活動も注目されるようになってきました。実は私はその前から少しずつではありますが、活動していました。

私の兄は体が不自由で障害があったので、小さい頃から「思いやりをもって」接する・行動するということが当たり前であり、自然だったんです。私は足も速くて、言葉も達者だったので、もしかしたら、兄が母のお腹に置いてきたものを私がもらってしまったんじゃないかと思うことがありました。だからこそ、自分にできることをちゃんとやらなきゃと思うんです。今の私があるのは、きっと兄の存在を通して成長できたからだと感謝しているんです。だから恩返しをしたいんです。

『仮面ライダー龍騎』の主題歌のお話をいただいたときも、今まで主題歌といえば男性ばかりだったのに、何で私なんだろうと思いました。ふと「そういえば兄ちゃんが『仮面ライダー』大好きだったな」と思い出すと、もしかして兄が私のために導いてくれたんでは……? という気がしたんです。

私がアニメの仕事をさせてもらえているのも、歌を歌わせてもらえるのも、何か意味があるのだと。この仕事を通してもっと私がやるべきことがあるんじゃないだろうかといつも試行錯誤しています。気負わずに自然にできる範囲で、演技や歌を通して子どもたちの笑顔をつないでいけたらと思っています。

声優って、すごく影響力のある大きな仕事だと思うんです。アニメを一つ作るのにたくさんの人が関わっていて、自分の発信したセリフ一つが誰かの心を揺さぶることもある。自分一人で終わることではなく、いろいろな人と関わってミラクルが起こせる仕事なんです。

声優を目指す人には、その覚悟をもってほしい。私も『ポケットモンスター』のサトシ役をはじめ、たくさんの役柄を通していろんな事をメッセージとして届けていますが、逆に、子どもたちからたくさんのキラキラしたパワーやメッセージをいただいたりしています。これまで本当に素敵な役を演じてこられてよかったと感謝しています。今や、なりたい職業として取り上げられることが多い声優ですが、たとえ声優になれなかったとしても、実生活に役立つと思うんです。子供に、絵本を上手に読んであげられたら、それだけで最高のお母さん!!みたいな……。

「松本さんは幅広く活動をしていますが、何になりたいんですか」と聞かれることがあります。私はお芝居を通して人間を学んで、自分を表現しているんだと思っています。表現者というとかっこよすぎる気もしますが、そこにたどり着きたいんです。あえてどうなりたいかといえば、松本梨香を表現したい。もっと松本梨香を大きくしたい。心を成長させたいんです。死ぬまで、ゴールはないのかもしれないですけど(笑)

表現者、松本梨香として頑張ります。

(2013年インタビュー)