【声優道】松本梨香さん「自分にウソをつかない演技」

役になりきれば自然と声や演技も変わる
作った声で長く続けていくことはできない

今までさまざまな役を演じさせていただきましたが、長期間にわたって同じ役を演じ続けることが多かった気がします。『ビバリーヒルズ青春白書』は10年。『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』は7年半、『ポケットモンスター』シリーズに至っては17年目に突入してますから。

長く一つの役を演じ続けるコツを聞かれることも多いんですが、どの作品も最初から「これは長期になる作品だ」と思って演じているわけではないので、特にコツというものはありません。ただ、大切なのは、無理をしないっていうこと。声を作って演じるのは、絶対ダメです。

家族・恋人・友達・先輩後輩で話す相手が変われば、おのずと表現も変わってゆくし、シチュエーションが変われば声のトーンも変わる。そのキャラの気持ちになって演じれば、自然と変わるはずなんです。作った声で長く続けていくとどこかに無理が生じて気持ちが乗らない。表現がウソになる。そんな気がします。大切なのは、心をどれだけ縦横無尽に響かせるか。いろいろなことをいっぱい吸収して、心の器を大きくして、どんなことも表現できるようにしておくことが大事だと思います。

最近の新人声優さんを見ていて感じることなんですけど、どういう声を出すかというのにとらわれすぎているんじゃないでしょうか。特に洋画の現場で感じますね。欧米人は彫りが深くてガタイがいい分、日本人よりかっこよく見えるじゃないですか。そういう憧れがあるのか、チンピラAという役なのに役にそぐわない、イケメンボイスでしゃべるんです。作品の中にはいろいろな人がいていいはずなのに、「どうしてみんな二枚目声になっちゃうの? もっと作品の流れを把握して、自分のもっているシンプルな声で自然にしゃべればいいのに」って思います。

ただ、舞台やドラマなら身振りや仕草を含めて表現できますが、マイク前では基本的に台本を持って演じなくちゃいけないので、そういう意味では、制約の多い声の表現って難しいなと思いますね。でもそれだけにやりがいがあるのですが……。たとえば前のめりになって話している人を見れば「それだけ伝えたいことがあるんだな」と思うし、椅子の背に寄りかかって腕組みしてしゃべってたら「何か達観してるのかな」と思う。そういうときの声の違いはどうなのかと、常に意識したり、ポーズが違えば声も違ってくる。もちろん最初からそこまでの表現はできないんですけど、そこに気づくこと、気づける自分でいることが大事なんじゃないでしょうか。

演技に大切なのは
ウソをつかないで素直でいること!

私はどの役を演じるときにも、気持ちを重視しています。サトシを演じるなら、自分の中のサトシな部分、「正義は勝つ」と信じているようなガキ大将だった自分を思い出して演じています。あまりに長く続けてきて、サトシ=自分になっちゃってるので、今ではまったく意識しないで演じられてますけど、スタジオに入るときからサトシになりきってますね。服装も、男の子役だったらスボン、大人の女性役だったらスカートで行くみたいに(笑)。そうじゃないと、演じているときに違和感があるんです。以前、洋画で自殺する役の吹き替えをしたことがあるんですけど、そのときは1週間くらい気持ちが滅入ってしまったことがありました。そのくらい役に入り込み魂を吹き込むんです。いたこさんみたいな(笑)。演じるにあたってそこまで自分を追い込む。大事だなと思います。

役になりきるための一例として、実際に画面に映っているのは洋画の俳優さんやアニメの登場人物なんですけど、私が演じた映像として自分自身にアフレコをしているのだと思い込むように演じてました。そうすることで、その役をもっと身近に引き寄せられるんです。でも収録スタジオでは、目の前に立っているマイク、周囲や後ろにいる人、手に持っている台本など、いろいろなことに気を配らなくてはいけない。舞台が主だった自分には台本を手に持って、それを見ながら演じるというのが苦手だったので、集中できるよう、台本は事前にある程度セリフを覚えてから演じるようにしています。
そうやって気持ちを作らないと、自分の中にいるもう一人の自分が「ウソつくんじゃないよ」ってささやくんです。画面の中で役者さんが泣いていたら、自分自身の言霊も泣いていたいけど、うまく気持ちがついていかず、泣けないこともあります。そういうとき、セリフを言った瞬間に「今、ウソついているんじゃないの?」って。だから、いくら「いい演技だったよ」とOKをもらっても、自分自身にはウソはつけないので、しっかりと気持ちを作り、素直に演じる事を心掛けています。

実はこんなエピソードもあります。『幽☆遊☆白書』の御手洗役で、自分がいじめられていたという経験を語るシーン。テストのときに泣いちゃうと、本番で気持ちがさめてしまうんじゃないかと思ったので、テストでは少し抑えて演じていたんです。もちろんそんなことをしていたら音響監督の水本完さんにも見抜かれてしまうわけで、テストが終わったときに「居残りね」って言われちゃいました。でもそんなふうに叱られたお陰で、すごくいい「泣き」の演技ができたんですけどね(笑)。今では水本さんに泣かされたって笑い話にしてますけど、アニメについては右も左もわからなかった私を育ててくれた大好きな音響監督さんです。

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