キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回登場していただいたのは、TVアニメ『前橋ウィッチーズ』で新里アズ役としてメインキャストを務める、咲川ひなのさん。
子供の頃に観た『ラブライブ!』に衝撃を受け、声優の道を志すようになった咲川さん。歌への苦手意識を抱きながらも、影で努力を積み重ね、高校では声優コースでの勉強に没頭。オーディションを勝ち抜いてつかんだ『前橋ウィッチーズ』で、等身大のままぶつかったアズというキャラクターと、かけがえのない仲間たちとの時間。繊細な感受性とひたむきな努力で一歩ずつ夢を叶え続ける咲川さんの素顔に迫りました!
咲川ひなの さきかわひなの●1月22日生まれ。山形県出身。ステイラック所属。主な出演作品は、アニメ『前橋ウィッチーズ』(新里アズ)、『真・進化の実〜知らないうちに勝ち組人生〜』、『ダークギャザリング』ほか。 公式HP:https://stay-luck.com/talent/sakikawa-hinano/ 5月12日(月)22時より、ベルガモONE TO ONE(ニコ生、OPENREC.tv)にて「かわいいは私の中にあり!!」が生放送スタート! ★咲川さんの手書きプロフィール公開中! |
μ’sの紅白出場で受けた衝撃と憧れ
――まずは、声優を目指したきっかけについて教えてください。
きっかけは、小学生の時に観た『ラブライブ!』でした。ちょうど初代のμ’sさんが紅白歌合戦に出場された年で、それまで存在は知っていたけれど、実際にパフォーマンスを見たのはそれが初めてだったんです。声優さんがあんなに歌って踊って、しかもステージでパフォーマンスしている姿にものすごく衝撃を受けて。「声優って、こんなことまでできるの?」と驚いたのと同時に、「私もああなりたい」と強く憧れを抱いた瞬間でした。
――アニメや声優への関心はその前からあったのでしょうか?
はい。小学生の頃は、朝や夕方の時間帯に放送されている子供向けアニメが特に好きでした。『プリティーリズム』や『アイカツ!』など、キラキラした世界観や、歌って踊る要素がある作品に特に惹かれていました。あとはアクションやホラーも好きで、ジャンル問わずいろんなアニメを観ていましたね。幅広く好きだったからこそ、将来アニメに関わる仕事ができたらいいなと漠然と思っていたんだと思います。
――もともと踊ることは好きだったのですか?
3歳の頃から新体操を習っていたので、体を動かすことは大好きでした。もちろん新体操とダンスはまったく違うけれど、表現することの楽しさは共通していたと思います。ただ、歌うことへの苦手意識は強かったんです(笑)。人前で歌うのが恥ずかしくて、周りにも「音痴かも」って言われたことがあって……。それがすごくショックで、それ以来自分の声や歌に自信が持てなかったんです。
――そのコンプレックスをどうやって乗り越えたのでしょう?
とにかく練習です。一人でコツコツ、人に聞かれないように、誰にも見せずにひっそりと練習を続けました。最近は『前橋ウィッチーズ』でボイストレーニングを受けているのですが、先生に「すごく不安そうに歌っているね」と言われて(笑)。やっぱり心のどこかで、あの時のショックが残っていたんだなと実感しました。でも、ちゃんと練習して、自分の中で「今の自分の歌、ちょっといいかも」と思える瞬間が増えてきて。その積み重ねが、少しずつ自信につながっていきました。
――幼少期はどんな性格の子だったのですか?
小さい頃は本当に活発で、外で遊ぶのが大好きでした。授業中も積極的に手を挙げて、前に出るタイプの子供だったんです。でも、転校を何度か経験して、環境が変わるなかで、だんだん内向的になっていった気がします。特に小学3年生の時の転校は、すでにクラスの友達同士の関係が出来上がっているなかで新しく入る形だったので、打ち解けるのにすごく苦労して……そこからはあまり目立ちたくない子になっていったのだと思います。
――その経験が、今のご自身に影響している部分も?
あると思います。今でも人見知りなところはありますし、初対面で話しかけるのは苦手です。でも、勇気を出して話しかけてみると、意外と仲良くなれたりして。お仕事でもいろんな人と出会う機会があるので、「この人と話してみたら何か得られるかもしれない」と思えるようになりました。少しずつ殻を破っていく、みたいな感覚ですね。
“この役だけは絶対にやりたい”と思えた出会い
――高校進学のタイミングで声優を本格的に目指されたそうですね。
中学3年生の時、進路を考えるなかで「声優になりたい」という想いをはっきり持つようになりました。でも、どうやったらなれるのかわからなくて……。専門学校や養成所のパンフレットを取り寄せたりして、親にも相談したのですが、当時は「まだ早いんじゃない?」と反対されて。でも私は、器用なタイプじゃないからこそ、少しでも早く始めたくて。そんな時に、演技やアフレコが学べる高校の存在を知って、「これしかない!」と思ったんです。
――ご両親の反応は?
最初はやっぱり反対されました。「芸能の世界で食べていくのは難しい」「普通の仕事ができなくなるかもしれない」って。でも私は「ほかにこんなにやりたいって思ったことないから」と説得して。自分の気持ちを何度も伝えて、なんとか理解してもらって進学できました。高校では声優コースを選んで、3年間、アフレコや舞台、歌、ダンスなど幅広く学びました。
――高校時代に声優を学べる環境に飛び込む決断は、ご自身にとって大きな一歩だったと思います。あらためてその3年間の経験を振り返って、どんなことが糧になっていますか?
やっぱり「挑戦してよかった」と思える日々でした。高校では普通の授業の後に、アフレコ実習や舞台演技、ダンス、ボーカルのレッスンがあって、最初は「これ全部こなせるのかな……」と不安だったんです。でも、仲間と一緒に取り組むうちに自然と日常の一部になっていて。舞台のお芝居を経験したことも、すごく大きかったですね。体を使って表現することで、自分の感情がどこにあるのか、どう表現すれば相手に届くのか、言葉以外の部分でも考える癖がつきました。声優としてマイク前に立ったときにも、舞台での“立ち姿”の意識は本当に役立っているなと感じます。
――高校では事務所の模擬オーディションなどもあったそうですね。
はい。年に数回、さまざまな事務所の方が学校に来てくださるんです。その中で、今所属しているステイラックの養成所の方と出会って、お声をかけていただいたのがきっかけでした。ちょうど1年生の終わり頃で、養成所に通うことが決まって、2〜3年生の2年間はダブルスクールのような形でレッスンを受けていました。学校と養成所、どちらも通うのは体力的にも大変でしたが、「今しかできないことをやろう」と思って、気合いで乗り切っていました(笑)。
――その努力が実を結び、卒業と同時に事務所所属が決まったんですね。
その時はうれしかったですし、ちょっとホッとしました。正直、何も結果が出ないまま卒業したらどうしようって不安もあったので。もちろん、所属できたからといってすぐに仕事が来るわけではないですが、「スタートラインに立てた」と感じられた瞬間でした。
――そこからアニメ『前橋ウィッチーズ』のメインキャストに大抜擢されるまで、どんな思いでオーディションに挑んでいたんですか?
もう、何十本と受けていました。受けても落ちることのほうが多くて、正直心が折れそうになったこともありました。でも、その中で『前橋ウィッチーズ』のオーディションは、歌って踊る活動もできますし、何より新里アズちゃんが私の好みにどストライクだったので「この子の役、私が演じたい」と本気で思えたんです。オーディションの帰り道もずっと「あの役、やりたいな……」と考えていましたし、実はオーディション後もしばらく気持ちがそわそわしていて。合格の連絡をもらった時は、最初は夢かと思いました(笑)。
――演じられたアズは、咲川さんと共通点も多いそうですね。
そうですね。アズちゃんは感情を素直に表に出す子で、私も「実は同じこと思ってた!」と感じることが多かったです。ただ、私はどちらかというと内にためてしまうタイプなので、アズちゃんのようにストレートに言葉にできるのが羨ましいなって思うこともありました。でも、演じていくうちに、自分自身もちょっとずつ素直になれていった気がして。アフレコを通して、自分を見つめ直す機会にもなりました。
――アフレコ現場はどんな雰囲気でしたか?
とにかく温かい現場でした。メイン5人はみんなアニメでの主役が初めてだったので、お互いに「ここで一緒に頑張ろうね」って気持ちがあって。先輩の杉田智和さんや東山奈央さんも本当に優しくて、たくさんのアドバイスをくださったんです。特に東山さんは、マイクワークや台本への書き込み方まで丁寧に教えてくださって……あの優しさは一生忘れられないです。初めての現場がこのチームで本当に良かったと思います。
――『前橋ウィッチーズ』で大きな一歩を踏み出した今、あらためて「声優としてこうなりたい」というビジョンはありますか?
やっぱり、子供の頃に感じた“ときめき”を、今度は自分が届けられるような存在になりたいです。私が『ラブライブ!』を観て「こうなりたい」と憧れたように、アニメを観た子供たちが「このキャラクターが好き」「この声優さんみたいになりたい」と思ってもらえるような、夢を与えられる人になりたい。あと最近は、子供向けのアニメにもすごく惹かれていて、たとえば『プリキュア』のようなシリーズや、幼児〜小学生向けの作品に出演して、成長のそばにいられるような声を届けてみたいなと思うようになりました。
――幅広い世代に届く声優さん、素敵ですね。ほかにも挑戦してみたいジャンルはありますか?
アクション作品はやってみたいです。実は私、小さい頃からアクションが大好きで、変身ヒロインものやバトル系のアニメもたくさん観ていたんです。キラキラしてる中にも強さがあるキャラクターがすごく好きで。今はまだ演技にも発声にも課題が多いので、もっと自分を鍛えて、いつかそういう“かっこいい女の子”も演じてみたいですね。
――将来的には、マルチに活躍できる声優さんを目指したいと。
そうですね。いろんな役を演じられる人になりたいし、声だけじゃなくてパフォーマンスでも表現できるようになりたいです。今はまだまだ発展途上ですが、歌もダンスも演技も全部好きなので、それを強みにできたらと思っています。
――日々の努力を支えているのは、やはり“好き”という気持ちなんですね。
本当にそうです。まだまだ自信が持てないことも多いし、落ち込む日もあるけど、「好き」という気持ちがあるから続けていられる。どんなに苦手でも、嫌いじゃなければ頑張れる。だからこそ、昔の私に「大丈夫、あの時の夢は叶えられるよ」と言ってあげたいです。
『前橋ウィッチーズ』との出会いがくれた大きな財産
――ここからは少し趣味やプライベートのお話もうかがわせてください。最近ハマっていることはありますか?
ゲーム実況を観るのが大好きです(笑)。自分ではあまりプレイしないタイプなんですけど、実況者さんのリアクションやコメント、ストーリーの進み方を見るのがすごく楽しくて。特にホラーゲームの実況が大好きなんです。
――ホラーですか! 自分でプレイするのはちょっと怖いけど、見るのは好きって方、結構いますよね。
まさにそれです(笑)。プレイは絶対できないんですけど、実況だと怖さも和らぐし、ちょっと笑える場面もあって。昔からガッチマンさんやキヨさんの実況をよく観ていて、今も時間があればYouTubeで検索して観ています。
――ピアノや新体操の経験もあるとうかがいましたが、今も続けているんですか?
ピアノは5歳くらいから始めていたんですけど、10歳前後でいったんやめちゃって。今は家に折りたたみ式の小さなキーボードだけ置いてあって、気が向いたときにポロポロと弾くくらいですね。音楽自体は今もすごく好きなので、歌や表現に活かせたらいいなって思っています。
――ちなみに、お休みの日はどんなふうに過ごすことが多いですか?
アニメを観たり、漫画を読んだり、あとは実況動画を観たり……本当にインドアなんです(笑)。一日中家にいても全然苦じゃなくて。でも最近はちゃんと人と会って話すことも大事だなと感じるようになって、少しずつ友達と出かけたり、新しい場所に行ってみたりするようになりました。
――では最後に『前橋ウィッチーズ』を経て、今後の自分にどんな期待を持っていますか?
うーん……“自分らしさ”を見失わないまま、もっと強くなっていきたいです。現場でいろんな先輩に出会って思ったのは、皆さん本当に“自分の武器”を持っているということ。私はまだまだ模索中ですけど、焦らず、でも諦めずに、自分の色を出せるようになりたいなと。『前橋ウィッチーズ』でアズちゃんを演じられたことは、私の中で大きな財産になりました。この出会いを無駄にしないように、これからも一歩一歩、進んでいきたいです。
撮影=武田真和、取材・文=川崎龍也