【声優道】田中真弓さん「生涯役者を貫く覚悟」

自分の目標を定めることが
力をつけるための第一歩

声優としての訓練というのは、特に受けたわけではないですね。ただ、声優の演技と芝居の演技は違います。声優の仕事には、類型が必要なんですよ。たとえばおばあさんならば、おばあさんと誰にでもわかる演技ですよね。それが上手になるというのは、声優としてとても大事なことだと思います。

といっても、大事なのはそれだけではないんです。類型の演技だけでいいんだったら、安くて若い人を使ったほうがいいに決まってるじゃないですか。でもたとえば八奈見乗児さんなんかは、使うほうが八奈見さんじゃなくちゃ嫌だから、八奈見さんにお願いするわけですよね。やるんだったら、そこまでにならないと意味がないと思っています。でも若い頃って「自分はこんなにできる」って思いがちじゃないですか。類型の演技が上手になって、何でもできると思い込んじゃうんです。でも、何かのきっかけで「ああ、自分はこんなにできなかったのか……」って気づいて、そこから変わっていく人もいます。

だから、興味がある子には愛情をもって、そういうことを言ってあげようと思うんですが、以前「真弓さんのおっしゃることはよくわかります。でも、そこまで声優っていう仕事にかじりついてるわけじゃないんです」って言われたことがあるんです。むしろ私のほうが気づかされちゃいましたよ。「あ、そうか! ごめん!」って(笑)。

そういうふうにちゃんと見極めてるなら、それはそれでいいと思います。たとえば「若い頃しかできないから、結婚して子供ができるまで」って決めて、アイドル声優になってガンガン売れてっていうのも、いさぎよくて私はいいと思う。ただ、ずっと役者をやりたいんだったら、たくさん本を読んで、舞台や映画を観たほうがいいですよね。

人としても役者としても、個性を伸ばすというのはとても大事なことだと思います。個性を伸ばすには人を愛すること以外にありません。声優は、人を愛する仕事。だから「こいつ嫌なやつだなあ」と思ったら、話してみるんです。「何で嫌なんだろう」って考えながら。そういうことで見えてくる自分の姿もまたあるんです。そう気づいたら、人と向き合うのが楽しくなってしまいましたね。まあ、ほんとにダメな人はダメですけどね(笑)。

人生もそろそろ締めくくりに入ってきているので(笑)、この先のことをよく考えます。新橋演舞場とか明治座あたりで、アニメなんて観たことないようなおばちゃんとかに「なんか面白いのが出てきたねえ。ちっこいけどよく動くのが」って言われるような、おばあさん役者とかになりたいです。

声優としては、とても幸せな人生を送っていると思います。『ONE PIECE』は『ドラゴンボール』を抜いて15年続いていますけど、作者の尾田(栄一郎)さんは、「真弓さんが『代表作はルフィ』としか言えないくらい続ける」って言ってくれています。40歳を超えて、こういう役をもらえたというのは、とても幸せなことですよね。「これで声優辞めてもいいぞ!」という意気込みで、今後もルフィとつき合っていこうと思っています。

(2011年インタビュー)