【声優道】竹内順子さん「演技にマニュアルはない」

声優は夢ではなくて、自分の技量を発揮できる
一生の職業にしたいと思った

劇団でいろいろな台本を演じるうちに、自分ができないこともどんどんわかってくるんです。「これができたら演技がすごく変わる」と思うと、そのための試行錯誤や努力は大変でも楽しいんです。いちばん苦しいのは、何をどうしたらいいのかわからないときですね。明確に「これができない」とわかっていれば、できるようになるにはどうしたらいいかを考えられるじゃないですか。お芝居を始めたばかりの頃は、しゃべれない、台本を覚えられない、動けない、動きがみっともないといったように、ダメなポイントもわりと明確にわかるんです。でも、なんとなく演技ができてしまうようになると、ダメなことはわかっているのに、何がダメなのかが見えない、もっと上があることはわかるのに、進むべき方向がわからなくなるんです。そういうことは今でもありますね。

声の仕事に興味をもったのは、劇団の公演を観に来てくださったお客様のアンケートからなんです。私の声に特徴があったのか、「声優さんみたいですね」とか「声の仕事をしてみたらどうですか」といったアンケート回答が寄せられるようになり、私自身もそういう仕事をしてみたいと思うようになりました。そんなときに、劇団の制作を担っていた人が声の仕事をキャスティングする会社でアルバイトをすることになり、これはチャンスだからということで劇団員全員のボイスサンプルを作って売り込んだんです。

それまで私はいろいろなアルバイトをしてきましたが、稽古や公演に合わせて休みを取ったりしなくちゃならないと、なかなか長期でできるアルバイト先が見つからないんです。それで短期バイトを繰り返していたんですが、声の仕事ならばきっと長く続けられる、そのための努力もできる、私は絶対に声の仕事がしたいと思って、ボイスサンプル作りにもすごく真剣に取り組みました。多分、劇団員の中ではいちばん必死だったんじゃないでしょうか(笑)。

どうして声の仕事を始めたのかと聞かれれば、一言でいうと「食うため」です。それまで勤めてきたアルバイトは、辞めようと思えばすぐに辞められたし、逆に簡単に辞めさせられもしたし、私じゃなくても代わりがいくらでもいるようなものでした。でも、声の仕事は自分の一生の職業にしたいと思ったんです。夢とかではなくて現実的な職業、自分の技能を発揮できるところでお金がいただけるなら、そういう場所で生きていきたいという一心でした。それだけがっついていたのが良かったのか、ボイスサンプルを作って間もなく声の仕事をいただけるようになりました。もちろん最初は少女1などの端役で、声の仕事だけで食べていけるかなと思えるようになるまでには、数年どころじゃなく時間がかかったんですけどね。

声の仕事に対する最初の手応えをつかんだのは、初めてオーディションに受かったときですね。『フォトン』というOVA作品の主人公フォトン・アース役だったんですが、それをきっかけにオーディションで受かる機会が増えていきました。

最初は女性が少年役を演じることに
敷居の高さを感じていた

これまでにいろいろな役を演じてきましたが、印象に残っている役を挙げろといわれれば、最初に出てくるのは『メダロット』のメタビーです。それまでも『フォトン』をはじめ『発明BOYカニパン』のカニパンなどの少年役を演じてきましたが、最初から少年役声優を志していたわけじゃないんですよ。最初は女性が少年役を演じることに敷居の高さを感じていたし、オーディションにも落ちまくっていました。

少年役のとっかかりがわかったのが『発明BOYカニパン』で、その後に演じた『メダロット』のメタビーで、一つの方法論を確立した感じですね。『メダロット』の録音演出は三ツ矢雄二さんだったんですが、最初は「20歳くらいの男性のつもりで演じて」と言われて混乱しました。声の高低とかではなく心の問題だとはわかっているんですが、どうしたらいいのかまったく見当がつかないまま、それでも2年弱のあいだ手探りで演じているうちに、あくまで表現方法の一つでしかないんですけど少年役を演じるための種を見つけた気がします。自分では『メダロット』を演じたことで、『NARUTO-ナルト-』のナルトが演じられるようになったんじゃないかと思っています。

もう一つ挙げるとすれば『TVで発見!!たまごっち』。この作品に登場するたまごっちを全キャラ演じていたんですが、たまごっちのセリフはいっさいなくて全部擬音、すべてアドリブなんですよ。もちろん台本もなくて、画面に出てくるキャラの絵を追いながら、その印象だけで擬音を発していくんです。この作品を経験したことで、アドリブやアクションにもいろいろあるんだということがわかりました。

何役も同時に演じているうちに「もうこれ以上はパターンが思いつかない」ということもありますが、引き出しの中を全部使い切った後のカスが意外と面白かったりすることもあるんです。役者って、ときには追い詰められることも大事なんですね。

もちろん『NARUTO-ナルト-』はいちばん長く演じているだけあって、私にとっても思い出深い作品です。ただ、今までに演じてきたキャラはどれも全部好きなので、その中で順位付けはしたくないんです。『NARUTO-ナルト-』は演じている期間が長い分、ほかの作品に比べて語れることも多くなっているというだけで、そういう意味ではできるだけニュートラルな気持ちでいたいですね。