【声優道】竹内順子さん「演技にマニュアルはない」

13歳から16歳になったナルトの気持ちが
さっぱりわからなくなっちゃった

『NARUTO-ナルト-』を演じているなかで、井上和彦さんに泣き言を聞いてもらったこともありました。最初はナルトも13歳で、そこから少しずつ成長していく状態が続いていたんですが、突然1週間後に16歳になっちゃったんです。正直なところ、ナルトを演じるに当たって、最初から私はナルトに追いつけない気がしていたんです。私が必死で走っても、やっとナルトの背中が見えるか見えないかくらいで、それでも走り続けてようやく尻尾がつかまえられるかなと思ったところで、いきなり『NARUTO-ナルト-疾風伝』になっちゃった。男の子も16歳になると思春期を迎えて、身長も大きくなるし、きっと声変わりもしていると思うんですよ。そんな年代の男の子役なんて私には未知の領域だったので、「声を低くしなくちゃいけない」みたいなどうしようもないことを考えてしまったくらい混乱しました。2年半の修行を終えて里に帰ってきて「懐かしい」というナルトの気持ちが、さっぱりわからなくなっちゃったんです。

それならもう最初から作り直そう、初めて接するキャラクターだと思って演じようと考えたんですが、私がもっている女々しさみたいなものが強調されて出ているようで気になって気になって仕方がなくなっちゃった。それで和彦さんに「どうしよう」って泣きついたら、すごく面白いアドバイスをいただきました。

「想像だよ、想像。まず、順子の骨がボコボコボコって大きくなって、ムキムキって筋肉ついたところを想像しろよ」って言うんですよ。架空のキャラクターよりは、まだ自分のことのほうが想像しやすいじゃないですか。ナルトの変化がつかめないんだったら、まずは自分を変化させてみろっていうことですよね。そこから出てくる気持ちの変化とか音の響きを考えて、さらにナルトに置き換えて変化を想像するというやり方です。1年間くらい『NARUTO-ナルト-疾風伝』のアフレコのたびに、まず大きくなった自分を想像してから臨むというのを繰り返して、やっと落ち着いたというか、一つの種を見つけられた気がしました。あくまでも種であって、そこからちゃんと育てられているかは、まだ自信がないんですけどね。

『NARUTO-ナルト-』を演じていて思うのは、作品の中にいるキャラクターが心に溜まったものをわっと吐き出すと、見ている側の心にも響くんだなってことです。キャラクターが傷つきながらも出した言葉が、私というフィルターを通すことによってパワーダウンしたら嫌じゃないですか。だから、いつでも演じる恐怖はありますね。ナルトがすごいことになるたびに、怖い怖いと思いながら演じています(笑)。

道は一つじゃない
満足したらそこで終わってしまう

ときどき「少年役を演じるコツは?」と聞かれることがありますが、多分そんなものはありません。そんなコツがあって、私がそれを理解しているんだったら、本に書いて印税生活をしますよ(笑)。

前にも言いましたが、私も最初から少年役を志していたわけではありません。「声が向いているから、少年役に挑戦してみれば?」と言われたのがきっかけです。もし少年役を演じるコツがあるとしたら、気づきの順番でしょうね。まずキャラクターの性別で考えないで「人間だからどう感じるのか」を考えるところが最初の気づき、次に「守りたいと思ったときにどう行動をとるか」という性格を考えることで二つ目の気づきがありました。その後はちょっといやらしいんですが「かっこいい男ってなんだろう」ということで、私は見た目やしゃべりかたじゃないと結論づけて、本当のかっこよさを考えるために男の人を観察したりしました。私の場合はそういう順番で気づきがあったんですが、人によってどういうタイミング、どういう順番で気づきが来るかは違うじゃないですか。それが演技、表現方法の違いになってくるんでしょうね。

もしマニュアルがあるとしたらもっと根底の部分、役者としての感性を鍛えるための、いくつかの基本的な方法論があるだけなんじゃないでしょうか。演じるっていうのは、その先にあるものを自分で探し出す作業なので、誰かの通った道をトレースしても結果は同じようにはならないと思います。方法としては誰かのマネから始めるというのもあるし、自分で疑問点を探し出しては追求していくというやり方もあるし、迷うたびに師匠のような人に教えてもらいたいと思う人もいるでしょう。どういう方法をとったとしても、最終的に自分がたどりつきたいところ、自分が何のためにやっているのかという目的を見失わなければいいんじゃないかと思います。

でも、道は一つだけではないんです。一つの道を知ったからといって、それで満足してしまっては、そこで終わってしまうんじゃないでしょうか。少なくとも私は、もしそう思ったとしたらそこで終わっちゃう、もう仕事が来なくなっちゃうと思うんです。あくまでも私は「食う」ために声優をやっているんで、どんどん発展していかなきゃならない、停滞したら会社と同じように潰れるしかないと思ってます。