【声優道】折笠富美子さん「魂を燃やして」

「だから私はプリキュアになったんだ」と強い使命感を感じた

もう一つ、印象に残っている作品を挙げるとすると『スイートプリキュア♪』ですね。『プリキュア』シリーズは、初代の頃から何度となくオーディションに呼んでいただいたのですが、どんどん年齢とキャリアを重ねてきて「もう難しいのかもしれない」と心の中では希望と諦めが混ざり合っていました。ですが、そんな壁を打ち砕き、シリーズ8作目にして南野奏役をいただいたときの喜びは大きかったです。

『スイートプリキュア』は震災の起こった年の番組で、作り手側の、より強い前向きなメッセージが込められていました。アフレコやたくさんのおもちゃ用の音声の録音などに加えて、被災地の方々に向けてのメッセージを送ったりする機会もいただきました。私は作品に関わるときはいつも「この作品を通じて少しでも皆さんに元気を届けられたら」という気持ちをもっていますが、『スイートプリキュア』の始まりは「みんながピンチのときだからこそ、私はプリキュアになったんだ」という重責と強い使命感を感じていました。

声優のお仕事を始めて、いろんな作品に出させていただきました。華々しく声優デビューしたから安泰なんてことはなく、いい時期もあれば、なかなか新しい役をつかめない時期などの波はやってきます。オーディションに受からなくて「ああ、この役演じたかったな」と人知れず落ち込むこともたくさんありました。ご縁がなかったことに、「今の私には何が足りなかったんだろう?」と、自分なりに考えています。選考後に「最後の2人まで残っていたんですけど」と言っていただくことがたくさんあるので、その言葉を信じ「次は選ばれるように」と気持ちを切り替えたり。役者道は日々心と向き合い、強く信じて進んで行くことの繰り返しですね。

「自分はこれを大事にしている」
という信念をもっている人が続いていく

最初は何もわからずただ純粋に「セリフがしゃべりたい」という気持ちから始まったので、この世界で長く続ける秘訣があるなら「こっちが聞きたい!」と思います(笑)。そもそも私が声優という仕事をするようになった経緯も、特殊だと思うんです。いろいろなご縁が私を運んでくれて、ここまで来られたと感謝しています。

ご縁に恵まれたときに、自分がそのご縁にすべて応えられてきたかどうかはわかりませんが、常にそのときの自分の精いっぱいを出してやってきました。そのおかげで、一緒にお仕事をした監督やスタッフの方から今でも「また一緒に仕事したいので頑張ります」なんて言っていただけたり、過去の作品を観て「一緒にお仕事したかったんです」と言ってくださる若いスタッフの方に出会えたり、そうやって私の演技を信頼してくださる方々がいてくれて、今の私があると思っています。

私が声優デビューした頃と比べると、今ははやりの移り変わりのスピードが速いし、芝居以外の部分で声優に求められることがすごく多くなっていると感じます。もし私が今の時代に20代でデビューすることになったら、埋もれてしまうかもしれないくらい、後輩の子たちは本当に器用ですごいと思います。そんななかで続く人というのは「これが大事」というものをしっかりもっている人なのではないかと私は思います。上の世代の方とご一緒しても同じく感じるのは、大事にしている信念のある方は確固たる個性をもっているということ。どんなことでも、信念をもっている人は輝き、道を切り拓くのではないでしょうかね。

私は「役者として表現すること」がいちばん大事です。20代の頃、アイドルやタレント的なことを求められた時期もありましたが、周りのスタッフには「そういう活動をするより、その時間で1本でも多く演じてたいです」としつこいほど訴えていました。逆にタレント的な活動をしていたらもっと知名度が上がっていたかもしれないけど(笑)、不器用ですが、それが私の生き方なんです。

たとえば若手声優でタレント的な活動もしているなか、「合間にアフレコやります」というスタンスをとる人を怒る方もいらっしゃるようですけど、その本人が「いちばんやりたいこと」をきっちり貫くのであれば、「今の時代、いろんな声優がいていいのでは」と私は思っています。とはいえ、アフレコの仕事をそれなりな感じで無難にやっていたら、それは作品に失礼。寝ないで絵を描いたり、その作品を必死で作っている人たちがたくさんいるわけですから、それを踏まえたうえで声優のあり方というのを意識してほしいですね。

「折笠にやらせてみよう」と託していただくことが
新たなチャレンジにつながっている

新人の頃、ポケモンのスタジオで初めて大谷育江さんの〝ピカチュウ〟の演技を間近で観たとき、その表現力の数々にとても感動したんです。鳴き声だけで怒ったり喜んだりしていることがきちんと伝わるのはすごいなって。それで「いつかあんな役をやってみたい」と言っていたら、WEB作品の『ポケモンジェネレーションズ』でピカチュウの役をやらせていただくことになりました。大谷さんのピカチュウとはまったく違うピカチュウを求められ……「私が別のピカチュウの表現を作るんですか!?」とプレッシャーで胃がキリキリ、前日は眠れませんでした(笑)。関係者の皆さんからは好評価をいただきましたが、自分ではまだまだ反省ばかりです。

歴史があるタイトルに呼んでいただくと、プレッシャーが大きいですね。ですが「折笠にやらせてみよう」と信頼して託していただくことが新しいチャレンジになって、結果的に引き出しが増えて、いろんな役をやらせてもらえている今につながっている気がします。

今は「こんな役がやりたい」というよりも、託された役に対してどれだけ高いクオリティで応えられるか、が私のテーマです。「予想以上!」と言われるくらいのレベルに上がっていきたい。それは役者にとっては永遠のテーマで、デビューのときからずっと変わらない課題ですが、そこに「量より質」という思いがさらに強くなっています。

先輩方を見ていると、頭で作りあげる技術以上の役作りを感じます。スタジオでどうこうするというよりも、歳を重ね、人としての年輪というか、その方の生き方が役の声に乗っているような気がするんです。ですから日々の生活の中で自身の心を育むことも、とても大事なのではないかと思います。私が憧れている先輩は、『ヴァンドレッド』や『明日のナージャ』などでもご一緒した京田尚子さん。圧倒的なエネルギーをもって、プロフェッショナルなお仕事をされていて、女性らしくてかわいらしくて。本当に魅力的な方です。あの年齢になってもお仕事を続けていらっしゃるということにも憧れます。

声優に限らず、社会に出て仕事をするうえで重要なのは、「自分がその場所で、どうあるか」ということなのかなと思います。その場その場で自分が今、全力でできることをやって、「魂を燃やす」というか。そういう生き方を本気でしていれば、いつかちゃんと花は咲くのではないかなと。私はそう信じています。

(2017年インタビュー)