キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回は2024年春からテレビアニメが放送中の女子競輪プロジェクト『リンカイ!』で伊東泉役を演じる川村海乃さん。幼少期から続けたバレエ、中学生からのオタク期、“声優”として羽ばたくまでの葛藤など、ここだけで明かされる本音の数々に注目です!
川村海乃 オフィシャルサイト:https://stay-luck.com/talent/kawamura-umino/ ★川村さんの手書きプロフィール公開中! |
クラシックバレエにはまった中学生から、オタクを謳歌する高校生へ
――「ミスiD2017」をきっかけに芸能界に入っていますが、子供の頃は人前に出ることより本を読むことが好きだったそうですね。
子供向けに書かれた偉人の本とか、歴史の本、青い鳥文庫など、幅広く好きでした。ゲームは禁止だったのですが、本ならなんでも買ってもらえたので、私にとって読書は幼少期の大きな娯楽。学校でもずっと本を読んでいたら、いつの間にか放課後になっていたりしました。今でも本は大好きなんです。
――好きな本に没頭できる環境、いいですね。
誕生日にも図書カードをもらっていました。他に誕生日にもらって嬉しかったのは、ホームスターっていう家庭用のプラネタリウム。いくつかのお祝い事を一緒にして、かなりねだって買ってもらった記憶があります。それを見ながらボーッと考え事をするのも好きで。いまだに家にあって、ちゃんと動きますけど、この前おもちゃ屋さんで最新式を見かけて。それも欲しくなっちゃいました(笑)。
――また考え事ができそうですね(笑)。ゲームはダメだったそうですが、興味はあったんですか?
興味はありましたよ。友達の家にいる間だけ、ポケモンとかWiiをやらせてもらって。当然できないから、同級生にヘタって言われながら楽しく遊んで。だからゲームは好きというより「憧れ」でしたね。
――ダメって言われると余計にやりたくなりそうです。
はい。ずっと欲しかったので、高校生になってからなんとかバレずに手に入れて、抱きしめながら家に持ち帰って……。もう高校生だし、親も「自分のお金で買うんだったらいいんじゃない?」と言ってくれて。でも、あとになって家の押し入れをあけたら、ゲームがいっぱい出てきたんですよ。母親がゲーム好きだったみたいで。勉強に集中するためにゲームを禁止したのは親の愛情だなって今は思えますけど、当時は嘘やん!って思いました(笑)。
――かなりの漫画オタクだそうですが、それも学生の頃から?
そうですね。少女漫画から入ったんですけど、もともと冒険活劇みたいな歴史小説が好きだったので、ハマったのはサンデーとかジャンプとか少年誌を読むようになってからですね。椎名高志先生の『絶対可憐チルドレン』とか。中学高校の頃は友達と協定を結んで、それぞれに買った漫画雑誌をトレードして読んでいたので、その頃の作品はなんとなく全部読んでいたような感じで。
――じゃあ、その流れでアニメも観るように?
中学に入った頃から、ラノベのアニメ化が増えて。私、図書館のヘビーユーザーだったので、依頼書を書くと融通を利かせて買ってもらえて、電撃文庫とかを読めていたんですよ。だから、ラノベがアニメ化されるたびに観て。高校の頃はどっぷりオタクっていう感じで、夜中までアニメを観て翌日学校で感想を言い合うっていう。コラボカフェもよく行きました。
――すごく楽しそうな学生生活ですね。
そうですね。中学までは引っ込み思案で、茶髪で流行りのメイクをして指導の先生に怒られちゃうような子に憧れてたけど、私は怒られる勇気もないし。美術部に入っていて、たまにデッサンや写生をする以外は、推しのイラストを描いたり、漫画の真似事をしてお互いに交換するとか……イラスト研究会みたいな感じになってましたね。ただ、当時はクラシックバレエを習っていたので、がっつり部活に勤しむことはできなくて。
――クラシックバレエは幼少期から打ち込んでいたそうで。
中高生の頃はほとんど毎日。以前は厳しいところに通っていたけど、ゆるい感じのところに移ったので、遊びの延長というか。小説を読んで、いっぱい妄想するような子だったので、王子さんやお姫様が出てくるような古典的だけど普遍的なバレエの物語に熱中していましたね。
――じゃあバレエを続けていたのは、将来を意識したわけではなく?
10年くらい続けたので、その頃は行くのが当たり前で、その中にコミュニティがあったし、大人の人から可愛がってもらっていたので……。だから、辞める時は不思議な感じでした。中学の部活や課題で行く頻度が減って、大きな役を演じさせていただいていたんですけど、たぶん運動量が減っていたからケガをしちゃって。ケガって自分の努力では解決できないものだから、そこで初めて壁にぶつかって。その頃、放課後に友達と遊べるのはいいなっていう選択肢も初めて出てきて、辞めてしまいましたね。
――学校も楽しくなってきたタイミングだったんですね。
そうなんです。高校は美術系に進んだので、余計に。女子美術大附属の高校で、昔の中国の映画スターの話しかしない子とか、制服の中にロリータ服を仕込んでモコモコになっている子とか、個性的な子が多かったので、それまでは本ばっかり読んでいて“ヘンな人”枠だった私も、普通に受け入れてもらえて。すごく世界が広がりましたね。
――自分を自由に出していくことができて。
はい。だから、もう楽しくなっちゃって。今までは決まった動きをいかにきれいに踊るかっていう古典的なものを重視するようなバレエの影響が大きかったので、オタクどっぷりになってから、アニメイト行くの楽しい、カラオケいくの楽しい! って解放されちゃいました(笑)。
役作りの仕方を学んだ舞台。2日くらい休みがあると旅へ
――美術家の高校で学んでいた流れで、デザイン系の専門学校へ?
親が広告関係の仕事なので、世の中に出るものを作り上げる側の人に憧れがあって。そういう世界なら、自分が助けてもらった煌びやかな作品に関わっていけるかなと思ったんです。それで、桑沢デザイン研究所っていう専門学校に通っていました。
――「ミスiD2017」を受けたのは、桑沢デザイン研究所に通っている頃ですか?
そうですね。なんでも始めると熱中しちゃうタイプで、学校では車やバイクのデザインを勉強していたんですけど、将来やりたいことがフワ〜ッとしていて。2年の最後くらいに「あんまり落ち着きがないし、デザイナーより芸能や役者の仕事が向いてると思う」と友達から言われて、なんて無責任なこと言うんだって思いましたけど(笑)。何度も言ってくれたので、じゃあ、恥ずかしいけど受けてみようかと。心のどこかで、素敵なことが起きるかもっていう期待もちょっとだけあって。オタクすぎて、芸能事務所はよくわからなかったけど、「ミスiD2017」の審査員をされていた岸田メルさんだけは漫画や小説で知っていて。かなり逃げ腰な挑戦でしたけど(笑)。
――そうだったんですね。事務所に入ってから早い時期にドラマ・CM・アニメ・ニコ生など幅広く出演していましたが、どんな仕事をしていきたいっていう方向性はありましたか?
まったくの素人だったので、それがわからなくて。ただ表現がしたいっていう漠然とした気持ちを事務所にも伝えていました。でも、アニメや漫画が好きっていう気持ちは汲んでくれて。舞台は、初めて出たのが藤原カムイ先生原作の『雷火』。不思議なんですよ。もう2度と出たくないって思うくらい大変だったのに、本番が始まると「もっとやりたい!」と思って。癖になるんだなって(笑)。
――なるほど(笑)。クラシックバレエで舞台に立つ時とは違いましたか?
すごく自由なんだなって思いました。最初は何をやっていいのかわからないから自由なことが怖くて、誰かから教わらないと何もできないのもつらかった。でも、自分から動き出さなきゃいけないのが仕事なんだって、そこで思いました。
――その後も舞台のお仕事は多くて、2.5次元作品の活動も充実していましたね。思い出に残っているのはどんな舞台ですか。
セーラーマーキュリーを演じた『“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live』はもう5年以上前の作品ですけど、昨年もイベントに出させていただいたりして、長く一緒にいる役。海外公演が前提だったのでセリフはキャラ名や技名くらいで、感情は踊りや動きで表現していかなきゃいけなかったのが、すごく大変でした。やるしかない!ってみんな思っていたので、メンバーの絆は深まりましたね。マーズ役の二宮響子ちゃんとはいまだに仲良くさせていただいています。
――エレシュキガル役を演じた「Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-」も人気の作品で。
ワークショップをしてから本番を迎えたんですけど、私が演じたのは世界を滅ぼそうとするキャラのひとりだったので、どんどん気持ちが病んでいってしまって……。世界を滅ぼすのが正しいことだと思えるまで、感情のサイズを大きくしなさいと教えられて、当時書いていたノートがどんどん残酷になって、何ヶ月もデスノートを書き続けている気分でした(笑)。気持ちを作った上で披露するっていうものを学ばせてもらった舞台でした。
――それは、役作りのようなものでしょうか。
そうですね。世界観をつかめない時は、妄想癖も役立ちました。立ち絵を見て内向的な感じだなとか、リアルで似てる人がいたけど、どんな性格だったけとか。それは今でも活かされていて、時間があればいくらでも妄想できます(笑)。
――役作りの時間が楽しそうですね(笑)。
そうなんです。普段も、お仕事ばかりだと気持ちが追い込まれてしまうので、2日くらい休みがあると「青春18きっぷ」を買って、行ったことがない場所に行ってボーッとするんです。そこで人間観察をしたりして。
アニメだからこそ楽しみながら救われる
――2024年にはMIXIの女子競輪プロジェクト『リンカイ!』で伊東泉役を演じることが決まっていますね。どんな作品になりそうですか?
女子競輪がモチーフになっていて、伊東泉ちゃんは伊東温泉っていう温泉街出身のキャラクター。まだ言えることは少ないんですけど……競輪ってすごく面白いスポーツだし、キャラクターたちが競輪を通してすごく頑張りながら成長していくので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
――これからアニメ作品の出演が増えていきそうですね。
そうなるといいなと思います。5年前に初めてアフレコを経験した時、ちゃんと勉強して実力をつけてから、またここに戻ってきたいって思ったんです。幸運に恵まれてお仕事をいただくことはあっても実力が突然つくことはないので、声優として活躍されている方に恥ずかしくないように、同じように努力はしようと思って、ワークショップや養成所に通いました。
――お話していると、すごくいろいろ考えているなと感じますが、「じつはこうなんです」という意外な一面もありますか?
私、すごくおっちょこちょいなので、長年住んでいる家の壁にいまだにぶつかりますし、家が大好きなので休日は部屋着のままダラダラしているし……。あと、大学生の妹がいて、私はいつも一緒にいるのが当たり前だけど、周りから見るとすごく仲良く見えるようで、この前も妹のネイルが割れちゃったから直してあげたりしました。
――お姉ちゃんだからしっかりしていることに納得できましたし、意外な一面もありがとうございます(笑)。これから声優としてはどんな作品に出演したいですか?
私自身、リアルの世界でほんとにしんどい時って、実写作品が生っぽすぎて観られなかったりするんですよ。でもアニメだからこそ自由な表現があって、楽しみながら救われたことがあって。キャラクターへの思い入れが強いからこそ、キャラクターに引っ張られて「明日学校に行ける」とか「頑張って仕事するぞ」とか、ちょっとしたきっかけをもらえる。今度は私自身がキャラクターのパートナーとして、どんなジャンルの作品であっても、面白くて笑っちゃうんだけど、観てくださった方の背中を押せるようなお芝居をしていくことが目標です。
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
撮影=石田潤、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング協力=吉村尚紀「オブジェクト」