【声優道】キートン山田さん「「ナレーション」という名前の役を演じる」

伝えたいと思う気持ちがあれば、生き残っていける

テレビの前で僕らの演技を見ている人の中には、さまざまな年齢の人がいます。見ている状況や理由もさまざまです。なんとなくテレビをつけているだけの人もいれば、真剣に見ている人もいる。その人たちが歩んできた道もさまざまで、誰一人としてまったく同じ経験をしてきた人などいません。

でも僕らは、そのさまざまな人たち全員をうなずかせるような演技をしなくちゃいけないんです。僕もできているとは思っていませんが、できるだけ多くの人に共感してもらえるような語りがしたいと思っています。そのためには、常にテレビの前の人たちのことを考えるようにしています。

たとえば僕と同年代の人に向けては、「あの時代はこうだったよな」という想いを強く表現すれば、より色濃く伝わるものがあるんじゃないでしょうか。そういう思いを込めた語りをすることで、「あの時代はそうだったのか」と納得してもらえることもあると思うんです。そういう意味では、日常のすべて、人生そのものが勉強だと思っています。逆に言うと、そういう自分の経験の中から出てくる思いを込めた語り口というのは、学校で教えてもらえるものでもないし、何かの本に書いてあるわけでもないんです。自分らしく語る、血の通った語りをするというのは、そういうことじゃないでしょうか。誰かに何かを伝えたいという気持ちをもって、常にそれを心掛けた演技をしていれば、時代が変わっても生き残っていけるのではと思っています。

自分で自分を育てていくということ

今は声優養成所もたくさんあって、学ぼうと思えばいくらでも学べる環境があります。僕は現場で盗み見て覚えていったので、羨ましいなと感じることもありますね。でも、学校だけでは学べないことも多いし、あまり教わりすぎるとテクニックばかりに走って、その人らしさがなくなってしまう気がするんです。基礎を固めるには、学校や養成所で教わるのが早道だと思います。しかし、ある程度の土台をしっかり作ったら、そこから先は自分で学んで自分を育てていってほしい。表現は自由なものだから、誰かから教わってできるものではないんです。

僕はナレーションを正式に学んだことがありません。だからこそできる表現もあると思うんです。いろいろなことを経験して、それを演技に生かしてこそ、自分の個性というものが出てくるのではないでしょうか。

ただ、そうやって頑張っても、報われるとは限らないのが声優です。僕自身、今まで長いこと声優をしてきましたが、「自分にぴったりと合っている」と心から思える仕事は数えるほどしかありません。もちろん、それ以外の仕事でも誠心誠意全力でやっていますが、後から考えると「ちょっと違うな」と思うことも(笑)。そういう自分にあった役に巡り会える運があれば、きっと声優として長生きできることでしょう。

今は声優さんの数も多いし、いわゆる「売れる演技」を求められてしまうことも多いと思います。それが自分に合っていないと、やがて忘れられて消えてしまう。声優さんの仕事の種類も増えて、演技だけではなく歌も歌えなくちゃいけない、ダンスもできなくちゃいけないと、さまざまな力を求められます。大変な時代だと思いますよ。そういう環境のなかで今、売れている人気声優さんたちは、きっと何かをもっている人なのでしょうね。僕にはとてもできないし、心から尊敬します。

ただ、そういう時代だからこそ、さまざまなことに挑戦できるというメリットもあると思うんです。ですから、歌でもテレビドラマでもどんどん挑戦してほしい。僕らの時代は声優なんて半人前の仕事だとバカにされていましたが、そうではないんだということを世間に見せつけてほしい。都合よく使われるだけではなく、自分なりの表現をどんどん実現していってほしい。

そんな夢を、これからの若い人たちに託したいと思います。

(2016年インタビュー)