【声優道】朴ロ美さん「体と心と魂が一つになる瞬間」

自分にとって芝居は神聖なもの
演技でお金をもらうことにピンとこなかった

私が入ったときの研究所には「魔の3日間演習」と呼ばれる行事があったんです。3日間、朝から晩まで時計もない真っ暗な部屋の中で、自分の想いを叫び続けなくちゃならないというもの。

最初は「もしかして危ない集団に入っちゃった?」と思ったんですが、私たちを見守る福沢先生の目は真剣そのもの。すると、こちらも真剣にやらなくちゃと思いますよね。それで叫び続けていたら、演習が終わったときには「もっと先生に私を見てほしい。受け止めてほしい」という気持ちになっていました。

それから1年ほど頑張ってみたら、いろいろと痛くて苦しくて哀しくてどうしようもなかった気持ちが、想いを吐き出すことでどんどん浄化されていったんです。やっと人間に戻れたかなという感覚ですね(笑)。ただ吐き出すだけではなく、それを表現に変えたいという欲求にもつながっていきました。当時、演劇集団円の会員になったのも、そういう自然な流れからです。

それでもまだ、自分が役者として生きていくことに疑問符だらけでした。まず、演技でお金をもらうということがピンとこなかったんです。私にとってお金をもらえるのはアルバイトであって、演じるときにはお金のことなんていっさい考えていませんでした。でも、あの頃はちょっとドラマや舞台やPVに出演したくらいで、結構な金額が手に入ることもある世界だったんです。

その半面、純粋な気持ちで演技に打ち込んでいるのに、そうじゃないものが勝っていくような大人の事情が見えてしまうこともあって……。私にとってお芝居はすごく神聖なものなのに、それがどんどん汚されていってしまう、そんな場所にはいたくないという思いが徐々に強くなっていきました。まだ20代でしたから、正義感も強かったのだと思いますけど(笑)。

これが最後だと受けたオーディションに合格
声の現場は舞台以上に舞台だった

そんな考えもあり、実はお芝居を辞めようと思っていた頃に受けたのが『ブレンパワード』の声のオーディションです。
自分では「今日で終わりだ、二度とこの人たちと会うこともないだろう」と余計なことは考えずにいたので、最後の現場はもう楽しくて楽しくて、怖い物なしでノビノビと自分を解放してしまいました。でもそれが良かったのか、受かっちゃったんですよ。こんなことってあるのかなと不思議だったんですけど、もしかして神様が「まだ辞めずに頑張れ」と言っているのかなと思いました。

『ブレンパワード』は、すごく面白くて楽しい現場でした。お芝居を仕事にするということに幻滅することも多かったんです。でもこの収録現場では、それぞれの役者さんが自分のポジションをきっちり理解して、役を担って次の人へとパトンタッチしていく。その姿を見て「舞台以上に舞台だな」と感じました。もう収録の日が来るのが楽しみで、こんな素晴らしい世界があったのかと心が震えましたね。

それまで声の仕事があるということは何となく知ってはいても、私にとってアニメの声は、キャラクターそのものから出てくるものだったんです。だから、一瞬ごとに役者の皆さんがキャラクターに命を吹き込んでいく様を目のあたりにしたときは、「これぞ演劇だ」と感動したんです。

マイク前でのお仕事は『ブレンパワード』が初めてだったので、本当に右も左もわからない状態でした。そんな私に、共演者の皆さんは手取り足取り教えてくださったんです。「この仕事をもう少し続けてみたい」と思うようになったとき、『∀ガンダム』のオーディションのお話が。私はヒロイン役を受けに行ったはずなんですが、どういうわけか主人公のロランのセリフも読まされたんです。

『ブレンパワード』で冬馬由美さんが少年を演じているのを見て「こんなこともできるんだ」と驚いていたくらいですし、少年を演じたのはそのオーディションが初めての経験でした。ところが収録が始まる1週間くらい前になって、「ロラン役に決まった」という連絡をいただいたんです。