自分とは性別が違う「少年」というフィルターを通すこと
『ブレンパワード』のときには毎週現場に行くのが楽しかったんですが、『∀ガンダム』の現場では戸惑いのようなものがありました。多分それは、初めての少年役ということが大きかったのではないでしょうか。私にとってお芝居とは真実を映し出すもののはずだったのに、自分とは性別からして違う「少年」というフィルターをかけて演じなければならない。その状況で、私は本当にウソをつくことなく演じられているんだろうか。それがとても怖くて、つらかったんだと思います。また、普段は出さないような叫び声をあげなければいけないシーンも多く、声帯が疲労してセリフの途中で声が裏返ってしまったこともあり、自分のふがいなさにも落ち込む毎日でした。
私の思い描いていた世界とのズレが次第に大きくなっていくような気がして、『ブレンパワード』のキャストの方々を誘って飲み会を開いたこともあります。その席で「今の現場は全然楽しくない。苦しいんだ!」と泣き言をいったところ、皆さんから「おまえは甘い!」と怒られました。多分、今の私でも同じように「甘い!」というでしょうね(笑)。
そんなつらさとふがいなさで落ち込んでいたときに、監督の富野由悠季さんが声をかけてくださったんです。「朴ロ美がしゃべれば、それがどんな声であろうとロランなんだ」。その一言で救われました。富野監督は人の心をすごく見透かす方なので、私の葛藤も見抜いていたんでしょう。今から思い返すと、こんな素晴らしい監督の作品でデビューさせていただけたこと、少年役を演じさせていただけたこと、本当に貴重な経験だったと思います。
私のプロ声優人生は『シャーマンキング』から始まった
それから声優という仕事にのめり込んでいったのですが、もちろんすぐにうまくなるわけありません。次にいただいた『シャーマンキング』のお仕事でも、怒られに怒られて毎週泣かされました(笑)。振り返ってみると、当時は自分のことだけで手いっぱいで、まったく先が見えていなかったのだと思います。
そんな私を導いてくれたのが、林原めぐみさんと高山みなみさん。『シャーマンキング』の現場でご一緒するたびに、迷いがどんどん晴れて、私が今しなければならないことがはっきりと見えてきた気がするんです。おかげで胸を張って「私は声優です!」と言えるようになりました。私のプロ声優人生は『シャーマンキング』から始まったといっても過言ではありません。
膨大なエネルギーを使って、私にそういう意識をもたらしてくれた林原さんと高山さんは、私にとってはお母さんとお父さんのような存在です。それまでは一つの仕事が終わるたびに、「もうこれで最後なんだ」「キャストの皆さんと、もうお会いすることもないんだ」と思っていたんです。でも『シャーマンキング』の現場が終わったときには、「もっとこの仕事を続けたい。作品作りにおいて私に担えるものがあるなら、全力で支えていきたい」と思うようになりました。
林原さんと高山さんには、いまだに頭が上がりません。でもそうやって怒ってもらえるのがすごくありがたかったり、うれしかったりするんですよ。