【声優道】岩田光央さん「表現者に必要な二つの柱」

ドラマの仕事と声優の仕事
どちらを選ぶかジレンマを感じていた

僕の転機になった役といえば、やはり『AKIRA』の金田役でしょうね。良くも悪くも、顔出しの俳優から声優にシフトするきっかけを作ってくれた作品だと思います。僕が所属していたのは劇団こまどりでは、「アニメの大ヒット作に出演したから、今後はアニメの仕事を増やしていこう」というような営業を行っていなかったんです。月曜はドラマ出演、火曜はCM出演、水曜はアニメのアフレコといった感じで、声優も数ある仕事のうちの一つという位置付けでした。だから僕の声優デビュー作は『AKIRA』じゃないんです。小学生のときに『大草原の小さな家』に少年Aみたいな役で出演したのが最初ですし、高校生の頃に『キャプテン』や角川アニメ映画『時空の旅人』にも出演しています。あと、高校のときで印象に残っているのはディズニー映画『ピーターパン』の吹き替えですね。まさか自分がピーターパンを演じるとは思っていなかったので、オーディションに受かったときにはびっくりしました。最終オーディションはアメリカからディズニー社の方が来日して行われたんですが、どうして僕に決まったのかわかりません。

今では仕事のジャンルが完全に声優オンリーになっていますが、顔出しのドラマに出たくないわけじゃないんです。ドラマの仕事に縁がなくなったというのが最大の理由でしょうか。劇団こまどりを辞めてからも、酒井法子さん主演のドラマ新銀河『帰ってきちゃった』で新聞記者の役を演じましたし、その後、テレビ時代劇『宝引の辰捕者帳』で下っ引きの役を演じましたが、そこまでで縁が切れたという感じですね。

また、ドラマの仕事と声優の両立は、すごく難しいんです。ドラマ出演が一つ決まると、たとえば『1年B組金八先生』の場合は、1週間のうち4日は完全にスケジュールを空けておかなくちゃいけない。ところが声優の仕事は、生臭い話ですけど単価が低いので、とにかく数をこなさないと食べていけない。僕自身、声優として積み上げてきたものをいったん保留にしてドラマを選ぶのか、声優としての仕事だけに本気で向き合っていくのかというジレンマを感じた時期があります。それで声優という仕事を選んだんですが、心のどこかで「もう僕はドラマの世界では生きられない」という意識があったんでしょうね。

やるからには本職の人と対等に
自分のもてるものすべてを使って発信する

ラジオの仕事も長く続いていますが、初めてラジオ番組のパーソナリティをすることが決まったとき、ディレクターさんが「岩田さんは声優として人気があるみたいですが、僕は岩田さんのことを知らない。いちパーソナリティとして接しますが、それでもいいですか」と言ってくださったんです。それがすごくうれしかったですね。パーソナリティにしろ何にしろ、その仕事だけを本気でやっている人がたくさんいるじゃないですか。僕は自分がパーソナリティをする以上、そういう本職の人たちと対等にやっていきたいんです。アニラジというくくりはあくまで制作者側の都合であって、ラジオを聴く人にとってはまったく関係ないことじゃないですか。僕を知らない一般の人が、たまたまチューニングをしていて僕のラジオを聴いて、「面白いな、また聴いてみたいな」と思ってもらえたら最高ですね。さまざまなイベントでステージに立たせていただくこともありますが、初めて『ネオロマンス』シリーズのイベントに出演したときはびっくりしました。5000人もの観客の前に出るなんていう経験は人生でも一度か二度だろうと思いましたね。

こんな簡単にステージに立っちゃっていいんだろうかという思いはありましたが、だからこそ最初から精いっぱいの力で出演していました。結果としてそのイベントが何度も続くことになるんですけれど、何度も続くなんてそれこそあり得ないじゃないですか。回数を重ねるごとに、もっと楽しませることができるんじゃないか、もっと力を出せるんじゃないかという想いが強くなります。

バンドやユニットで歌を歌わせていただくこともあります。歌を歌う以上、本職の歌手の人たちと同じ土俵でやっていきたい。でも僕には歌手の人ほどの歌唱力はない。だったらパフォーマンスで補うしかない。そういう感じで、とにかく自分のもてるものすべてを使って、僕を知らない一般の人にも楽しんでもらえるようなものを発信していきたいんです。

どうしていつも全力でいられるのか、そのパワーはどこから出るのか、と聞かれることもあります。それはもう、好きだからとしか言いようがありません。グラフィックデザイナー時代もそうなんですが、何かを作り上げていくというクリエイティブな作業が好きなんでしょうね。子役時代からいろいろな現場でもまれてきて、下積みみたいな時代もありましたし、デザイナーをしているときは時間に追われながら作業をして、朝になってから「もうこんな時間か」みたいに疲れ果てて帰ることもありました。やっている最中は大変な思いをしていたんでしょうけれど、今振り返ると楽しかったなぁという印象しか残ってないんです。

もっとぶっちゃけた話をすると、声優の仕事ってある意味、ゆとりがあるんですよ。どんなに朝早くても収録は10時からだし、夜も深夜になることなんてめったにありません。ドラマは朝5時集合で、終わりが朝の4時なんてこともよくありましたからね。それだけ拘束時間が短いんだから、だったらもっとやりたい、もっとやれると思うんです。とにかく貪欲なんですよ。でも、やるからにはどんなことにも本気で向き合うという気持ちは、これからもおろそかにしたくないですね。