キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回はTVアニメ『戦隊大失格』で錫切夢子(すずきりゆめこ)役を演じる矢野優美華さんにインタビュー。原作を読み込んだ矢野さんならではの作品の魅力や、漫画とアニメとの楽しみ方の違いなど、興味深い考察や分析に注目を! 声優になったきっかけや休日の過ごし方など、パーソナルなお話もたっぷりと伺いました。
矢野優美華 オフィシャルサイト:https://yu-rin.com/talent/yourin_yy0219.html ★矢野さんの手書きプロフィール公開中! |
何もわからないからこそ「やってみるか!」という気持ちで挑んだ新人時代
――4月から放送のアニメ『戦隊大失格』で錫切夢子役を演じる矢野さんですが、そもそも声優に興味を持ったのはどんなきっかけでしたか?
中学の時、アニメや漫画を好きな友だちが周りにいっぱいいて、アニメイトさんに一緒にグッズを買いに行ったりしていたんです。そこで「声優さんって歌も唄うしラジオにも出るんだ、面白そうだな」と思って、よくわからないまま雑誌で見つけた声優のオーディションに応募したこともあります。高校生の時に、「養成所に入ると声優になれるらしい」っていう噂を聞いて、養成所への入所を決めました。
――養成所に通っていたんですね。
私、すごく下積みが長いんです。高校生から大学まで6年間、養成所に通っていたので。その後、別の養成所にも通って「私、向いていないかも…」って思った時に、今の事務所に合格できたので、ここまでかなり長い道のりでした。
――初めてのお仕事で覚えていることはありますか?
事務所に入って半年も経たないくらいにアプリゲームのお仕事をさせていただいたのが、最初だと思います。もちろん緊張しましたけど、何もわからないからこそ「やってみるか!」みたいな気持ちになっていたので、今思えば、仕事の知識がついてきた2年目、3年目くらいのほうが緊張していました。
現場を体験するにつれて、正解を探しちゃうというか、自分のやりたいことより周りの気持ちを優先するようになっちゃって……。これをやったら嫌われるとか、もう声をかけてもらえないんじゃないかっていう気持ちが先行して。ドンッと自分の意思をぶつけられるようになったのは、ここ1〜2年ですね。
――これまでの出演作で、転機のような作品を挙げるとしたら?
初めてアニメのレギュラーとして出させていただいた『はねバド!』ですね。メインではないけど、ちょこちょこ出させていただいて。初めて第一線で活躍されている声優さんたちとご一緒したんですけど、テンパって本番中に先輩に話しかけちゃったりするし、てんやわんやで……。毎週収録明けに38°Cの熱を出すくらいウワーッ!ってなったのを覚えてます。でもやっぱり先輩のお芝居を見させていただくのは貴重な機会で、本当に勉強になりました。
アニメの後に原作を読み、またアニメを楽しんでほしい
――『戦隊大失格』はいわゆるヒーローものですけど、これまでもヒーロー作品に触れることはありましたか?
今でこそ女の子が戦うのは普通ですけど、私が子どもの頃の女の子の遊びはお姫様ごっことかが主流で、マリオの主要キャラで遊ぶときも「絶対ピーチ姫がやりたい」みたいな感じで。ヒーローというより、プリンセスになりたい子どもでしたね。
――今回演じる錫切夢子は戦闘部隊の一人ですね。
夢子は大戦隊という組織の中でも強いキャラクターですけど、あんまり戦わないんですよね。だから戦う女性というより、この人強いんだろうな……というイメージでした。
――「戦いは茶番だった」という興味深い世界観を持つ作品ですが、台本や原作を読んだ時にどんな感想を持ちましたか?
原作のイメージと、アニメから受けるイメージは少し変わるのかなって思いました。春場ねぎ先生が描かれている原作は、いい意味で複雑なので考察のしがいがあります。社会風刺的な部分があったり、これって何かのメタファーかも……と感じることがところどころに散りばめられていたり、先生が普段感じていることをギュッと詰め込んでいらっしゃるんだろうなと。私は大学で文学部を専攻していたからか、ミステリーなどを読むのが大好きなので、原作の考察を重ねながら読んで楽しんでいます。
ただ、考察しながら読むのは苦手だなっていう方もいると思うので、そういう方にはアニメから『戦隊大失格』に触れていただくのもいいかもと思います。監督のさとう(けいいち)さんが、かっこいいところはかっこよく、ダサいところはダサく、面白いところは面白く、ねぎ先生の原作の複雑さをいい意味で噛み砕いてわかりやすく伝えてくださるので。原作漫画とアニメ、それぞれの楽しみ方がある作品じゃないかなって思います。
――夢子も原作では考察しがいのあるキャラクターだと思いますが、演じるにあたって、どんなふうに役を掴んでいきましたか?
たぶんアニメを観てくださる方は、はじめは何も夢子のことがわからないかもしれません……。原作(既刊13巻)でやっと正体がわかってきたくらいなので。私もアフレコ前は、夢子が謎多き人物だから、役者として表現するのが難しくて。 どう彼女を表現するといいか考え込んで初回アフレコ前日の深夜に号泣して、泣きすぎて2時間しか寝ていない状態で現場に入りました(笑)。
――たしかに原作を読んだ限り、夢子というキャラクターを掴むのは難解ですよね。では、第一話のアフレコは周りの雰囲気を見ながら演じていったような感じですか。
そうですね。私が悩みながら演じた夢子が、アニメの絵や音楽に助けられて、観ている人にとっても「何なんだ、こいつ。わかんねえ奴だな」ってうまいこと捉えてもらえればいいなって思います。
――まだまだ本性が明かされない夢子だと思いますが、そんな中で、視聴者の方に注目してほしいところを教えていただけますか?
「夢子が何考えてるかわからないから、原作も読んでみようかなあ」と原作を読み、またアニメに戻っていただけると、その原作の展開も意識したお芝居をさせていただいているつもりなので、「なるほどね。だから夢子はこうなんだ」と、もう一回楽しんでいただけると思います。後半には、夢子の本心みたいなものをちょっとずつお芝居に入れられるようになってきたので。
――矢野さん自身が気になった話数や場面はありましたか?
1話から3話までをまずは観てほしいなと思いますね。夢子としても、セリフの量が多いのは1話から3話くらいまでなので(笑)。
――他のキャラクターも個性豊かですが、気になるキャラクターはいますか?
原作を読んでいる時からすごく好きだった、ピンク部隊の撫子(益荒男)さんです。絶対ピンクじゃないよねっていう筋肉ゴリゴリの屈強な方なんですけど、見た目に反してチャーミングな部分があり、紳士的な部分もあり、物腰の柔らかさも持ち合わせているんです。ちょっと三枚目なのかな? いや、真面目にやってるのかな……? と感じる面白いキャラクターです。演じられている立木さんも、一見ワイルドなのにチャーミングで物腰柔らかな方なので、キャスト表を見た時はウワ〜って喜びました。ぜひ、撫子さんに注目してほしい。イチオシです!
――立木さんとはアフレコでもご一緒されたとか。
もう圧倒されました。ここに絵がついたらどれだけすごいことになるのかと。私自身も楽しみです。
――アフレコはどんな雰囲気でしたか? 聞くところによると、さとう監督の本番の掛け声が独特だったとか。
そうなんですよ。「本番! よーい…はい!」って。声優の現場って何も合図がなく収録が始まることも多いので。さとう監督はたぶん、実写のフィルムを撮られている経験があるからこそ、カチンコを叩く感じでパンッて始まるので、私は緊張したまま本番に入るよりもスッと入れたような気がします。さとう監督はいつも「どう、調子は?」っていう感じで、現場でいちばん明るかった気がします(笑)。
――さとう監督に助けられていたんですね。夢子については何かおっしゃっていましたか?
さとう監督は、収録の最中基本的に、私たちの演技について全面的に受け止めてくださるような方なので、夢子の役作りに関しても、私からまずお伝えして、「だったらこうしてみたら?」と提案をしてくださるような感じでした。3〜4話くらいの時に何人かで食事をする機会を用意してくださり、いい意味で友だち感覚というか、話しやすい雰囲気を作ってくれました。
休むのが下手で、休日は用事を入れちゃいます
――プライベートでは、どんな休日を過ごしていますか?
私、本当に休むのが下手みたいで。何かしらの用事を入れちゃうんですよ。何もしないのが落ち着かなくて。でも、さすがに体が悲鳴を上げることがあるので、そういう時は体をベッドにはりつけるようにして無理にでも寝ます。頭の中で「なんかしろ〜!」っていう声が聞こえても、「うるせ〜」って言って。
――じゃあ、リフレッシュしたい時にすることはありますか?
お料理と読書と旅行。ちょっと疲れたな〜と思ったら、急にプリンを作り始めたり、クッキーを焼いたりします。家にいると考え事しちゃうなって時は、タブレットだけ持って駅の近くのカフェに行ったり。気候がいい時期は「明日、北海道行こう」となったり。急に思い立って飛行機や新幹線でどこかに出かけることは割とありますね。
――充実してますね。文学部ということでしたが、どんな本が好きなんですか?
私の通っていた学部は特殊というか、文学というより文芸に近くて。気持ちを活字にするにはどう表現するのか、みたいなことを学んでいたんです。だから学生時代は自分でもよく活字を書いてましたね。幼少期から自分に起こったことを物語調に書いて「私あの時こんなこと考えたんだ」って振り返ってみたり。だから逆に日記みたいに気持ちをただ書くっていうのは苦手で、小説みたいに1つの形にしたいんです。
――声優さんで仲の良い方は?
大西沙織ちゃんは最初に通っていた養成所で同じクラスだった時期があって、そこからもう10年以上の付き合いです。夢子役が発表された時もいちばんに連絡をくれたんです。いつまでも、あの頃の大西沙織ちゃんでいてくれるので、今でも大好きです。悩みを打ち明けることもあるし、お仕事の話もするけど、お互い何者でもなかった時からの友だち。あの頃よりは会える時間が少なくなったけど、会えなくても元気で笑顔でいてくれたらそれでいいって思える友だちですね。
――せっかくなのでもう一つ。最近の衝撃的な出来事があったとか。
最近、歯が溶けまして……。リンゴ酢が健康にいいと聞いて飲んでいたら、歯がすごく痛くなっちゃって。歯医者さんから「うん、溶けてるね」って。胃や歯に負担がかかるからちゃんと薄めてくださいって注意事項に書いてあるのに、酸っぱいものが好きだからあまり薄めずに飲んでいたんですよ。もう今、歯の表面が溶けて、甘いものや味が濃いものはしみるようになっちゃって。大好きなチョコレートも食べられないんです。みなさんは気をつけてくださいね!
――では、これから声優として目指していきたいことを教えてください。
お仕事をご一緒させていただく方や、観ていただくみなさんに安心して役をお任せしてもらえるような声優になりたいなと思っています。たとえば原作に思い入れが強い方は、声がつくのが不安になることもあると思うんですよね。でも矢野さんだったら大丈夫でしょうって楽しみに思ってもらえるような、大切な役を任せていただけるような声優になりたいです。
――演じてみたい役柄はありますか? 小さい頃はプリンセス系が好きだったとお話していましたが。
そうですね。プリンセス系もそうですけど、お仕事系にも憧れます。男性が多い環境で女性がキャリアを積み重ねていく……って、ドラマだとよく観ますけど。声優って特殊なお仕事なので、逆に会社員さんがオフィスで揉まれながら成長していく、っていう女性を演じてみたいなっていう願望があります。
――この記事を読んでくれた方に、どんなことを伝えたいですか?
自分が声優として何ができるのか、まだ探り探りではありますが、そんな毎日の中でも支えてくださる方がいてくださって。どこかでお返しができたらいいなと思っているので、これからも末長く応援していただけるとうれしいです。
撮影=石田潤、取材・文=吉田あき
矢野優美華さんコメント動画
出演情報
『戦隊大失格』
【ストーリー】
13年前、突如始まった怪人と大戦隊との存亡をかけた戦い。だがこの戦い、実は茶番劇?!とうの昔にアジトは陥落、怪人幹部も全滅、残った下っ端戦闘員ダスターズは、大戦隊と結ばされた秘密の協定<毎週末、地上侵攻し敗れ散る>を繰りかえす日々。この敗け続けの人生に、やさぐれた戦闘員Dは遂に立ち上がる!
【キャラクター】
錫切夢子(すずきり ゆめこ)
CV.矢野優美華
日々輝と行動を共にする大戦隊イエロー部隊所属の戦隊員。イエローキーパーに次ぐ「従一位」という位階を持つ。日々輝に擬態したDの正体に気付いているが、なぜかDに協力し、戦隊壊滅を目論む怪しさ満載で謎だらけの戦隊員。
【スタッフ】
原作/春場ねぎ『戦隊大失格』(講談社「週刊少年マガジン」連載)
監督/さとうけいいち
シリーズ構成/大知慶一郎
キャラクターデザイン/古関果歩子
アニメーションスーパーバイザー/羽山賢二
音楽/池頼広
色彩設計/近藤直登
美術監督/権瓶岳斗(グーフィー)
3DCGディレクター/千葉高雪(A-worth)、竹内晋作(サブリメイション)
撮影監督/久保田淳
アニメーション制作/Yostar Pictures
OP主題歌/キタニタツヤ「次回予告」
【キャスト】
小林裕介、梶田大嗣、矢野優美華、
中村悠一、井上剛、小野賢章、鳥海浩輔、M・A・O
吉野裕行、長江里加、和氣あず未、立木文彦
小野友樹、山下誠一郎、鬼頭明里、濱野大輝、黒沢ともよ
三上枝織、逢坂良太、清水優譲、野津山幸宏、羊宮妃那
■オフィシャルHP
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©春場ねぎ・講談社/「戦隊大失格」製作委員会