「声優図鑑」仁見紗綾

仁見紗綾「変わることを恐れず、声に正直でいたい」【声優図鑑 by 声優グランプリ】

「声優図鑑」仁見紗綾

キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。

今回登場していただいたのは、TVアニメ『チ。―地球の運動について―』でヨレンタ役を演じ、鮮烈な印象を残した仁見紗綾さん。

もともとはナレーター志望だった彼女が、「マイクの前で芝居をする」ことに目覚め、声優という道に進むまでの軌跡。決して順風満帆ではなかった養成所時代の葛藤や、人生を変えた作品との出会い、そして新人ながら全身全霊でぶつかった『チ。』での体験。変わることを恐れず、演じることに真っすぐ向き合い続ける彼女の、芯のある優しさと、静かな情熱に迫ります。

 

「声優図鑑」仁見紗綾

仁見紗綾

ひとみさや●2月4日生まれ。山口県出身。BLACKSHIP所属。主な出演作は、アニメ『チ。-地球の運動について-』(ヨレンタ)、『劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(メイ)、『黒執事-寄宿学校編-』、『【推しの子】』ほか。

公式HP:https://www.blackship.jp/female/sayahitomi/
X:@1103_saya_

★仁見さんの手書きプロフィール公開中!

その場の気持ちに合う言葉を選ぶようにしています

──まずは声優を目指すようになった原点について教えてください。声優になりたいと自覚されたのはいつ頃だったのでしょうか?

実は、最初から声優を目指していたわけではないんです。もともとはナレーターになりたくて、それを学べる専門学校に進学しました。その学校では、1年目は全員が共通の授業を受けて、2年目からナレーターコースと声優コースに分かれるカリキュラムだったんです。でも、そのお芝居のレッスンが本当に難しくて……。最初の頃はうまくできないことばかりで、気持ちがどんどん沈んでしまって、心が折れかけたこともありましたね。

──芝居が苦手だと感じながらも、それでも続けていこうと思えたのは、どんな気持ちがあったからだったのでしょうか?

そんなとき、ある舞台のお芝居の授業で、自分のなかに湧き上がる感情をうまく表現できた瞬間があって。「こうしたい」「こう演じたい」っていう気持ちが、初めて自然と出てきたんです。その体験がすごく大きかったです。それまでは正直、芝居が怖かったけど、その日をきっかけに気持ちが変わりました。

──その瞬間、自分の中の何かが変わった実感があったんですね。

はい。もともと「マイクを通して何かを届けたい」という想いはずっと持っていたので、「マイクの前で芝居ができる」という声優という仕事が、まさに自分の理想なんだと気づいて、それで2年目は迷わず、声優コースを選びました。

「声優図鑑」仁見紗綾

──根っからのアニメや声優好きだったというわけではなかったというのは意外でした。

そうですね、子供の頃からずっとアニメが好きだったわけではなくて。中学生の時に友達に誘われて、ある男性声優さん二人の番組が映画化された作品を観に行ったのが、声優という存在を意識した最初でした。その時は山口の地元から、広島まで一緒に行ったんですけど、友達が「一人じゃ心細いからついてきて」と言うので、内容もよく知らないままついていって(笑)。でも、その映画を観て「このお二人は、声優さんなんだ」と知って、すごく素敵な世界だなって感じたんです。映画を観終わった帰り道に友達が「あの人はこの作品にも出ていてね……」と教えてくれて。そこから、「この声の人って誰なんだろう」とか「どんな作品に出ているんだろう」ってキャスト表を見るようになって、自然とアニメも観るようになっていきました。

──そうした流れで、少しずつ声優という職業に惹かれていったんですね。

はい。小さい頃は漫画や小説がとにかく好きで、ずっと本を読んでいる子でした。でも兄がアニメ好きだったので、自然と一緒に観るようになって、そこから私自身もアニメにハマっていったように思います。

──今振り返って、人生や価値観に大きな影響を与えた作品はありますか?

『図書館戦争』という作品が、私の中ではすごく大きな存在ですね。学生時代、私自身ちょっとどもりがあったりして、言葉が思うように出てこないことが多くて、自分の考えをうまく伝えられないってずっと感じていたんです。そんな時に出会った『図書館戦争』は、キャラクターたちの心情がとても丁寧に描かれていて、モノローグや会話の言葉の運びがすごく心地よくて。「ああ、こんなふうに思ったことを言葉にできたらいいな」と強く思わせてくれました。今も、自分が話すときは事前にキーワードを用意して、その場の気持ちに合う言葉を選ぶようにしています。『図書館戦争』の影響で、「言葉でどう思いを伝えるか」をすごく意識するようになりました。

「声優図鑑」仁見紗綾

「変わることを恐れない」。その言葉を大切にしています

──卒業後は養成所に進まれたとのことですが、その経験が今の活動にどう活きていると感じますか?

実は、今の事務所に入る前に、別の養成所にも通っていました。そこでは上のクラスに上がれなかったり、査定でギリギリ届かなかったり……悔しい経験もたくさんしました。でも、今の事務所の養成所で福山(潤)さんのレッスンを受けた時、たまたまレッスン後にお話する機会があったんです。ちょうど事務所に所属できるかどうかの大切な時期で、私もかなり焦っていて……。福山さんに「変わってないね」と言われた時にハッとしました。私はずっと「下手なんだから、できることをちゃんとやろう」と、狭いところでばかり努力していたんです。新しいことに挑戦するのが怖くて、守りに入っていたんだなって気づかされました。それ以来、「変わることを恐れない」って意識を強く持つようになりましたし、自分の殻を破って、新しい引き出しを増やしていくことが、この仕事を続けていくうえで本当に大事なんだと、今は実感しています。

──ご家族には「声優になりたい」と伝えていたんですか?

実は、ちゃんと「声優になりたい」と宣言したことはなかったかもしれません。でも、「こういう学校に行ってみたい」と言うと、両親は「やってごらん」と、いつも自然に背中を押してくれて。ありがたい存在です。

──ご両親の応援があったからこそ、挑戦する勇気を持てたんですね。

母は昔、自分がやりたかったことを諦めた経験があるそうで、「子供たちには自分のやりたいことをやってほしい」と思ってくれていたんだと思います。兄弟もみんな、自分の道を応援してもらっていて……私は本当に恵まれた環境で育ったんだなと感じます。

「声優図鑑」仁見紗綾

ヨレンタは私自身の支えになってます

──そうしたなかで、アニメ『チ。―地球の運動について―』の出演が決まった時のことを教えてください。

まさに夢のような出来事でした。最初に「最終候補に残っている」と聞かされた時は、信じられないくらいうれしかったです。でもその分、期待しすぎてしまうのが怖くて……。「ここで落ちたら、きっとすごく落ち込むだろうな」と思って、自分の気持ちを少し冷静に保とうとしていました。実際に合格の連絡を頂いた時は、うれしすぎて泣いてしまいました。でも、共演されるキャストの方々の名前を聞いて、そこで急に現実が押し寄せてきて(笑)。「この中に入るのか……私、本当に大丈夫なのかな」って、不安とプレッシャーが一気に来たのを覚えています。

──いざ収録に入ってみて、現場の雰囲気やご自身の心境はいかがでしたか?

正直、すごく緊張しました。アニメの収録自体がまだ片手で数えるくらいしか経験がなかったので、「まずは足を引っ張らないようにしなきゃ」と必死で。事前に福山さんに「台本ってどうやって持てばいいんですか?」「マイクとの距離はどのくらいですか?」といった、基本中の基本のことまで確認して、何度もシミュレーションを重ねました。でも、先輩方の演技を間近で見られること自体が、本当に貴重な経験でした。皆さん一人ひとりの演技がまるで宝石のようで、見ていて感動する瞬間ばかりで……。一緒に芝居ができることが、幸せで仕方なかったです。

「声優図鑑」仁見紗綾

──では、収録現場で特に印象に残っている出来事や学びはありましたか?

先輩方の演技にただただ圧倒されるばかりで、まさに“ “贅沢”という言葉をそのまま形にしたような時間だったというか……。台本に書かれたセリフが、皆さんの手にかかるとこんなにも色鮮やかになるんだ、と驚きの連続でした。なかでも印象的だったのが、音響監督さんのディレクションに対しての応答力です。先輩方は指示を受けたら、すぐに「わかりました」とうなずいて、次のテイクでもう完璧に仕上げてこられる。そのスピード感と精度の高さに、本当に感動しましたし、自分もそうなりたいと強く思いました。

──演技だけでなく、収録前の準備などから学ぶこともあったのではないでしょうか。

中村悠一さんの台本チェックの仕方にこっそり憧れてしまって……。赤ペンで色々と書き込まれていたんです。私もすぐに赤ペンを買ってきて、まねをしはじめました(笑)。黒だと文字が埋もれて見にくいこともあったので、色を変えることで見やすくなるっていう、すごくシンプルだけど実践的な学びでしたね。

──共演者の振る舞いから受けた刺激も大きかったんですね。

本当にそうです。小西克幸さんが演出の方向性を受けて、さらに良くなるように提案する姿も見ていてとてもかっこよかったです。作品に対して真摯で前向きな姿勢がにじみ出ていて、「私ももっともっと作品に貢献できる存在になりたい」と、自然と背筋が伸びました。

「声優図鑑」仁見紗綾

──演じられたヨレンタというキャラクターは、どのような存在になりましたか?

ヨレンタは、今でも私の心の中心にいる存在です。彼女は女性が認められにくい世界の中で、真っすぐに立ち向かっていく芯のあるキャラクターなのですが、自分も当時は新人として不安と向き合っていたので、重なる部分がとても多くありました。収録を通して、彼女と一緒に成長しているような感覚がありましたし、弱さも強さも丸ごと受け入れて、前に進む姿勢は、私自身の支えにもなっています。

──反響も大きかったですよね。

はい、本当にありがたいことに。「あの作品観てました」「ヨレンタ、印象に残りました」といった声を現場やSNSで頂けるようになって……。『チ。』という作品を通して、自分の名前を知ってもらえる機会が増えたと実感しています。

最近はアクセサリーをつけるのにハマってます

──活動の幅が広がるなかで、プライベートでのリフレッシュ法や趣味も気になります。

最近はピアノを少しずつ練習しています。昔エレクトーンをやっていたので、鍵盤に触れる時間は心が落ち着きますね。でも、集中しすぎて逆に疲れちゃうこともあって(笑)。あとは食べることが好きなので、「今日は何を食べようかな」と考える時間がいちばんリラックスできているかもしれません。

――自炊はよくされるんですか?

だいぶ前に兄が遊びに来たことがあって、私の家にはその頃、電子レンジがなかったんですけど、私自身は冷たいご飯でもおいしく食べられるタイプなので、特に気にしていなかったんです。でも、兄にご飯を作って出したら、「なんで電子レンジがないんだ。温かいご飯を食べなさい」って言われて(笑)、その場で電子レンジを与えられました。それ以来、今ではホカホカのご飯をちゃんと食べています。

「声優図鑑」仁見紗綾

──QOLが上がりましたね(笑)。

本当に上がりました! あとアクセサリーを探すのが楽しくて、最近はヨレンタのイメージに合うイヤリングを選ぶのにハマっています。もともとは全然着けるタイプではなかったんですけど、『チ。』のインタビューや上映会など、イベントがあるときに、キャラクターのイメージに合うアクセサリーを身に着けたいと思うようになって。実は、撮影のときに着けているイヤリングは、花弁が全部3枚になっているものを選んでいるんです。その「3枚」の条件を満たすものを探すのが、すごく大変で。でも見つけたときはすごくうれしくなるんです。先日の特別展のイベントの時も、輪っかが三つつながっているイヤリングを選びました。それに加えて、真珠のような丸い飾りが二つついていて、「ヨレンタの正直さ」や「大人びた雰囲気」など、いろんな意味を込められるものを選ぶようにしていますね。アクセサリーって、こんなに種類があるんだって驚きましたし、探している時間もすごく楽しくて。今は「趣味にしたいな」と思っています。

──最後に、これからの目標について教えてください。

『チ。』という作品とヨレンタというキャラクターは、私にとってかけがえのない代表作になりました。でも、ここがゴールではなくて、これからもっと「仁見紗綾といえばこの役」と言っていただけるような作品を積み重ねていきたいです。まだまだ足りないところも多いと感じているので、挑戦することを恐れず、一つひとつを丁寧に、自分の声を届けていきたいと思っています。

「声優図鑑」仁見紗綾

撮影=武田真和 取材・文=川崎龍也

仁見紗綾さんコメント動画

「声優図鑑」に出てほしい声優リクエストを募集中!

    声優図鑑