畠中祐

畠中祐のゆっくりすくすく 第67回

畠中祐

このコラムでは畠中さんのお仕事や好きなもの、感銘を受けた作品などについて語っていきます。

今回選んだ作品は映画『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』。

なんか、ひっさびさに、ドキュメンタリー映画が見たくなりました。まじで数えるほどしか見てません。最後に見たのは「スーパーサイズ・ミー」でした。もうあまりにも監督に課せられるミッションが大変すぎて、こんなにドキュメンタリー監督は大変なのかと、観ていてゾッとした記憶があります。でもそれは、究極に良いものを撮ろうとする熱意の現れで、それは誰にも止めることのできない情熱で、、、それが体を蝕むまで、きっと彼らは気づかないのでしょう。

この映画の登場人物、クレイグも、まさにそう。自らの情熱で、自らを壊してしまった1人です。彼は映像作家としてアフリカの原住民の人たちと交わり、必死に、「アウトサイド」から「インサイド」の人間になろうとしました。そしてそのような仕事の重圧から、心がボロボロになり、カメラを持てない状況にまで陥ってしまいました。

これは役者の立場として、彼のこの「インサイド」になろうとする姿勢は、なんだか強烈な役作りにも似ているように感じて、見ていてただごとじゃありませんでした。故に、彼のまっすぐさ、真面目さが時に自分自身を傷つけていくその光景は、身につまされるというか、、、
良いものが生まれてくる瞬間の代償は計り知れないのだな、、、と感じました、、、

クレイグは、この代償のせいで、家族にも多大なる迷惑をかけ、息子とも、うまく関係が結べなくなってしまいます。

そんな時、彼は幼少期に住んでいた南アフリカの海岸沿いの、あの荒れ狂った海にもう一度潜ろうと思いつきます。ある意味逃避だったのかもしれませんが、荒く冷たい海は、馴染めば自由が広がる雄大な世界。少しずつ海は彼を癒し、再び彼にカメラを持たせる勇気を与えました。

そんな中、一匹のメスだこに出逢います。
彼女はもちろん警戒しますが、彼女との出会いにビビッときたクレイグは、もう毎日毎日彼女の元に足繁く通って、少しずつ彼女の心を開いていきます。

もうね、ドキュメンタリー映画なんですけど、この心を通わせるまでの流れは、まるで恋愛映画を見ているような気持ちになりました。

お互い初めて触れた時のドキドキとか、カメラを落として彼女を驚かせてしまい、その後彼の前に姿を現さなくなった1週間とか、彼女のことを思い続けて、彼女のことを必死に探すクレイグとか、、、もうね、焦ったくて、ロマンチックなんですなんか。これドキュメンタリーだよな。しかも相手はタコだよな、、、?とわかっていても、クレイグと同じように、最後は彼女が愛おしくてしょうがなくなるのです。本当に、タコは知能が高いのはもちろんなのですが、なんか、心があるように見えてくるのです。

彼に心を許して、彼の体に抱きついてきた彼女の姿は本当に愛おしかったし、魚の群れと戯れる彼女の姿は最高にキュートでした。なんだか彼女の心に触れるような瞬間がいくつもあって、人に抱くような、淡い恋心を抱いてしまうのです。

でもこれは、タコを追いかけるドキュメンタリー。絶対に超えてはいけない一線があります。
海の中は美しいですが、その側面だけじゃなく、命の危機は容赦なく襲ってきます。

タコがサメに腕を一本食いちぎられた時、どんなにクレイグは助けたかったでしょう。サメを追い払って、彼女を守ってあげたかったに決まってます。でも彼はカメラマン。大きな連鎖に手を加えてはいけない立場なのです。明らかに衰弱しきった彼女を目の前に、成す術などありません。カメラで撮り続けるしかない。胸が締め付けられる思いでクレイグは撮り続けました。

でも、1週間以上が経過したある日、彼女の腕が再生して、小さな腕が一本生えてきていました。

もうこのシーン、なんだかすごく勇気をもらえたのです。死ぬかもしれない傷でした。でも、また新しく生えてきた。カメラを持てなくなったクレイグ、彼はある種このタコのように死んだような日々を過ごしたのかもしれない。でも、彼女の腕が生えてきたように、彼も今、カメラを持って、この美しい海を、美しい彼女をカメラに収めている。何度だってやり直せる。何度だって生き返れる。まさに、彼女が教えてくれたことでした。

最後、彼女は子供を産みます。50万個の卵を産み、その卵を守るため、食べることも忘れて必死に守ります。やがて、彼女は衰弱していきます。これがタコの寿命。1年という短い一生です。
あまりにも献身的な姿に、涙が出ます。でも、これが命を授かるということ、そして、愛を注ぐってことなのかもしれない。子を育てる姿は、人もタコも変わらず、尊い。
その尊い姿に、思わず涙が出てきます。

そして彼女は一生を終えます。
最後は、もう身を守る力も尽き、魚たちやヒトデ、そしてサメに食われてしまいます。
最後まで、我が子のために身を捧げた彼女。
あまりにも儚く、愛のある姿。

だから、クレイグも、息子にめいいっぱいの愛を注ぐようになりました。彼女が教えてくれた自然の尊さを、彼女が生きた海という世界の雄大さを、息子に教え、共有します。

タコも人も同じなのだなあと思いました。愛を持って、それを繋いでいく姿は、どちらも尊く、見ていて背中を押されるような、そんな勇気をくれます。

まさに、彼女が教えてくれたことです。
この映画の元々の英題は「My Octopus Teacher」
タコが教えてくれたことを、クレイグのように僕も胸に深く刻んで、誰かのために僕も生きてみたいと、そう思わせてくれるドキュメンタリー映画でした。すみません、、、今回ネタバレありで書いてしまいましたが、お話以上に、映像に心打たれます。ぜひ、実際に見てみてください!よろしくお願いします!

次回の「畠中祐のゆっくりすくすく」は、4月30日(土)に更新予定! お楽しみに!

畠中さんに質問!

Q:畠中さんの苦手なことは何ですか?(富山県・ゆっきゃん)

ゆっきゃんさん!質問ありがとうございます!苦手なことは、黒板をきれいに消すことです!!!黒板に字を書くこともちょっと苦手です!!!

畠中祐が今、答えます!!!

畠中さんが動画でも質問にお答えしていきます。
今回のお便りのテーマは『あなたが「ありがとう!」と伝えたい人を教えてください』です。

次回の動画ではラジオ「俺にかまわず先に行け!」の4年間の思い出について今、語ります!
お便り募集はリニューアル後より再開予定です。お楽しみに!

畠中さんへの質問&お便りを大募集!


    はたなかたすく
    8月17日生まれ。神奈川県出身。賢プロダクション所属。主な出演作はアニメ『RE-MAIN』(猪俣ババヤロ豊)、『MARS RED』(栗栖秀太郎)、『SK∞ エスケーエイト』(喜屋武暦)、『ましろのおと』(田沼総一)、『ダイヤのA ActⅡ』(浅田浩文)、『うしおととら』(蒼月潮)、『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(香賀美タイガ)ほか。