【声優道】羽佐間道夫さん「チャンスに備えるためには」

誰でも言葉をしゃべるからこそ声優の仕事は難しい

声優の仕事は、言葉をしゃべることです。そう言うと皆さん、「誰でも言葉は話せるんだから、声優なんて簡単にできそうだ」と思うんですよ。でも、誰もが言葉を話せるからこそ、自分だけのものをもっていないと、プロとしてやっていくのは難しいと思います。自分の長所は何なのか。自分のどの部分を使って、どう露出していきたいのか。それをはっきりとわかっていないと、プロにはなれないんじゃないでしょうか。

役者にはメソッドがありません。こういうときにはこうしなければならないという決まりはないんです。だからこそ、演技には自分の人生観やイメージが色濃く出てしまうし、自分の中の引き出しにより多くのものを詰め込んで、幅を広げておかないといけないんです。

幅を広げる一つの方法として、登場人物の多い小説を音読するという方法があります。ただ音読するのではなく、登場人物の一人ひとりにキャスティングをして、その人の演技を想像しながら音読するんです。キャスティングするのは、声優じゃなくてもいい。お父さんやお兄さん、友達や近所のおばさんでもいいからキャスティングして、その人だったらどう演じるかを想像しながら音読すると、ただ小説を読むより広がりが出てくる。その人のまねをしようとすれば、その人をよく観察してどういう人物なのかを細かく想像するしかありません。それが演技の勉強になるんです。我々の仕事はイマジネーションだけが養分です。想像力がない人は、役者なんて仕事は選ばないほうがいいと思っています。

もう一つ、演技のうまい下手のポイントは呼吸です。皆さんは、うまい役者とはどういうものだと思いますか。人間は誰しも、吸って吐いてという呼吸をしています。よく、うまい役者は安心して見ていられるといいますが、その呼吸のテンポが合うと安心するんです。乱れると不安になるし、見ていて苦しくなっちゃう。つまり、うまい役者とは、観客と息を合わせられる役者、観客を自分のテンポに同調させられる役者なんです。呼吸というのは、別の言い方をすれば「間」です。その間の取り方は、生まれ持ってのセンスも大きいですね。だから、間の取り方がうまい人をよく観察して、そのセンスを身に付けてほしいと思います。

ただ、日本語と外国語では間の取り方が違うんです。だから洋画の吹き替えをするとき、口パクに合わせてしゃべるだけだと、わーっとしゃべって息継ぎをして、またわーっとしゃべるという苦しい呼吸になってしまいます。洋画のセリフを見ている人に安心して聞かせるためには、セリフに抑揚をつけてうねらせないといけない。その緩急があってこそ、安心して聞いていられるセリフになるんです。どう抑揚をつけるのかは技術なので、これもやはり、うまい人の演技を見て勉強していくしかないですね。

ライフワークにしていきたい『声優口演』ライブ

実は最近の収録現場で、少し不満なことがあるんです。皆さんは「エロキューション」という言葉を知っていますか。「演説法」とか「雄弁術」などと訳されますが、つまりきちんとした発声で、抑揚をつけて明瞭に、わかりやすくしゃべることです。エロキューションがしっかりしていると、セリフの内容が見ている人に伝わりやすくなるんです。ところが最近の現場では、エロキューションができていない人が多い。僕はそういう抑揚のない芝居が好きではないんです。抑揚をつけないことが自然な芝居だと思っている人もいるけど、自然な芝居と棒読みは違います。そういう抑揚のない芝居をする人たちのなかで、僕がエロキューションを使って演じると、「羽佐間さんだけ浮いちゃうんで、あまりアクションをつけないでください」って言われちゃう。冗談じゃないって思いますよ。エロキューションがあるからこそ、観ている人も感情移入できるんじゃないですか。それが悔しくて、『声優口演』を始めたんです。

『声優口演』っていうのは、無声映画に合わせて声優陣が演技を生で披露するという一種のライブです。これがけっこう評判になって、ぜひ出演したいといってくれる声優さんもたくさん出てきました。ベースが無声映画だから、どんなセリフを言っても構わないし、アドリブも入れ放題なんです。ちょっとしたセリフの合間にアドリブを挟むと、共演者がすぐ反応してくる。その呼吸が面白いんです。いつどんなアドリブが挟まってくるのかわからないから、お互いに顔色をうかがったりしてね。なかには、あらかじめアドリブのネタを仕込んでくる人もいるけど、僕はほとんど仕込まない。だから、言ってすぐに忘れちゃうんです。「あのアドリブ、面白かったね」と言われても、覚えてないのがちょっと残念ですね。

こういったライブをやることで、声優という仕事に対する認識を深めてもらおうという目的と、こういったライブを通して無声映画という素晴らしい作品に少しでも触れてほしいと思っています。今の若い人は、無声映画に触れる機会もないでしょう。僕らのセリフで無声映画と若い人との接点を作れたら、非常に愉快じゃないですか。とくにチャップリンの無声映画は、さまざまなキャラクターが出てくるので、演じていてもすごく勉強になります。

2013年に、チャップリンの孫が声優口演ライブに来たんです。最初は「無声映画は無声映画のまま上演するべきだ」というので、「とにかく観に来てくれ」とお願いしたら、最後には絶賛してくれました。これからも声優口演はずっと続けていきたいと思っています。

(2014年インタビュー)

BAR『Envelop』バーテンダー・亜夜芽【CV.諏訪彩花】